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「グラス・ホッパー」冒頭部

空は空の、雲は雲の、低い草で覆われた大地はその大地の、そして風でさえも、それぞれが原色でありのままに存在し、一つ一つは主張しながらもうまく調和された景色。

車の中からぼんやり眺めていた。

僕の視線は真っ直ぐに伸び、遮られることなく遙か向こうに見える地平線まで届く。強過ぎず、弱過ぎない太陽の光を浴びた風景が、淡いコントラストを織り成していた。まるで同じ長さの可視光線が、平坦な面で跳ね返り同系色の色で反射しているように。なんとなくぼやけて映った。

よく見ると、それぞれの色は確かに違い、黒で縁取りしなくても見分けのつくセザンヌの風景画の様だった。絵画のような≠ニいう表現は適切ではないかもしれない。それは四角く切り取られるキャンバス上の風景ではなく、両目でとらえられ得る視界全てに限りなく広がっているのだから。

思いきり空気を吸ってもなくなる心配がない程の広がりと、無限≠ニいう感覚が浮かぶ。使い果たさぬように制限しながら自然の恵みを使い、これ以上壊さぬように規制して乗りこなす毎日。そんな事を強いられる日本の暮らしから抜け出した僕には新鮮な感覚だった。あり過ぎて縮こまった暮らしから、何もない分思い切り伸ばせる空間へ。僕らはいつからか「快適」という基準を重要視する中で、あれもこれも足してきた。そうして日本の街には、両手両足を伸ばすことのできる空間が少なくなった。思い切り伸ばす事のできるこの空間は、僕を自由にする。たとえ疲れ果てて倒れるまで走り回ったとしても、ぶつかったり、何かを避ける為に曲がったりする必要はない。

空を飛ぶ
もしかするとそれは、こんな感覚なのかも知れない。

ガタン。
また、強く揺れた。車のシートから僕の体が十センチ程ホップする。


「ソル」冒頭部

その地では神として崇められた太陽。
スペイン語で「SOL(ソル)」。
群青色の澄み切った空から、強い日差しをこの地に送り込む。
「神よ」
両手を合わせて幸福を願い、時には不運続きの人生に八つ当たりで罵倒も吐き捨てたかもしれない。  けれども、「太陽よ、神よ」
この旅がどうか無事で実りの多いものでありますように。
祈りの言葉と願う気持ちが僕の胸の中で飽和し、はちきれそうに 圧迫する。圧迫した胸の中が妙にドキドキしていた。

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【内容紹介】

「単純だ、だだっ広い、何にもない、真っ白になってく、頭ん中」
モンゴル、ボリビア、ペルー。そこにあるものは、果てしなく続く
大地ときらめく太陽。旅先で出会うのは、裸の自分。空と雲、大地
と草。シンプルな光景の中を、一歩一歩、力強く踏み出して行く。
いつかこの手にでっかい何かを掴むために・・・。
旅の記憶が鮮明に蘇る青春旅行紀。

鈴木正吾「グラス・ホッパー」