レアンドロ・エルリッヒ展
見ることのリアル

Leandro Erlich: Seeing and Believing


森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
2018年3月3日(土)

インスタ映え(2017年の流行語)の展覧会、というふれこみで、昨年11月から始まって以来、SNSでじわじわと人気が出てきたこちら。レアンドロ・エルリッヒという名前よりも、金沢21世紀美術館にある「スイミングプールの人」といった方が納得が得やすいかも知れない。が、彼の宇宙のような世界を浮遊すると、とにかく、なんだろう、不思議な楽しさがあるのだ。

彼にとって過去最大の個展!を謳い文句に、大型インスタレーションから映像、模型や建物写真まで、お腹いっぱいになれる充実度。

まずは「反射する港」。真っ暗の部屋の中で浮遊するボート。水面の揺れの動きを綿密に計算してプログラミングする架空。目の前にあるボートが、浮かんでいると感じているのは見ている側の勝手で、つまりは「そういうボート」なんだけど、「浮いてるみたい」だから、すごい、となる。とても不可思議な世界感だ。そして「雲」。複数枚のガラスに吹き付けた白のインクを重ねて日本、イギリス、フランス、ドイツを作る。「地下鉄」では、連結部のドアからみる車内が繰り返され、「教室」という大がかりなインスタレーションでは、廃校になった教室に浮かぶ亡霊が。人が四、五人だったらもっとリアルに亡霊だったかもしれない。「日中の白い飛行、夜間の黒い飛行」は、時間をかけてじっくり体感したい作品。そして「眺め」。今回、一番すきだった作品。ブラインド越しに隣のマンションの部屋と部屋をのぞき見る。ずーっとみてられるから不思議だ。例えば、カフェの窓からの光景とか、赤ちゃんの動きとか。ヌードを描いている画家、泥棒、トレーニング中の人に食事時だったり。そのまま「隣人」という作品へ。これは一枚のドアののぞき穴から見ると、廊下がのびて、すぐ裏にもドアがあって、そこから見てもまた廊下がある。ので、一枚のドアを両サイドから覗いている滑稽な姿が成立する作品。底なしの高さが見られる「エレベーター」、のぞいた窓の対面、横側に自分が写っている「失われた庭」、ひとつの箱のなかにある各部屋を自分の視点から見ているような「部屋(監視T)」、トリックアートに一番近い「黄金の額」など。

一番、おっと驚いたのは「試着室」という作品で、密室で小部屋という固定観念を打ち破る、続きのある迷路という設定は、鏡を通り過ぎて、次次進んでいても違和感を伴う不思議な感覚だった。同じように不思議な感覚が伴いながらも、参加者がいて、それぞれの顔をもった作品が出来上がる「美容院」、ポスターにもなった今回の展覧会の顔、「建物」へと、参加型の作品で各々に楽しみ、写真を撮る。こういう体感、アート展では確かに珍しい。これからのアートを感じさせてくれる「試着室」から「美容院」→「建物」への流れだった。

その後、溶ける家の実際の写真と模型や「階段」「タワー」などの模型を見て、もう一度、その時の「建物」を眺めて見たりする。人が居て、それぞれに遊びながらアートになるという。例えば、今日は原色デー、みたいな服の色をコントロールしたり、男子、女子、子供。はたまた二歳未満のみ、という絵もおもしろいな、なんて空想しながら展覧会を後にした。



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