白か黒か
2009年04月19日
「白か黒で答えろという 難題を突きつけられ ぶち当たった壁の前で 僕らはまた迷っている」(「GIFT」Mr.Children)

白黒。モノの善し悪しや、是非、有罪無罪などを決める時に使われる。つまり、「はっきりさせる」という時に使う言葉だ。イラク戦争前、ブッシュ政権は世界に「正義か悪」を迫り、戦争への参加・不参加かを選ばせた。小泉元首相は、郵政民営化の賛成・反対を迫った。ともにグレーゾーンの選択肢を排し、「さぁ、どっち」だと突きつける。その「壁」の前で損得勘定や、「その後」の諸々を考え……。結局、前者の「戦争」も、後者の「選挙」も、白黒はっきりつけるには少々「難題」だった。

確か非暴力運動で有名なインドのガンジーは、「正義か悪を決めるのに、多数決は役に立たない」という趣旨のことを言っていた。多数意見が、必ずしも正しいわけではないということだ。考えてみれば当然で、多数意見の周りには、必ず少数意見が存在する。「正しい」というのは別々なのだ。なのに、「正しさ」は強引にも存在する。そこにできる歪みや溝。

今週、タイで起こった赤シャツ集団の暴動を見ていると、ふとそんなことを思った。

昨年11月、バンコクの国際空港に集まったのは黄色いシャツをきた集団だった。反タクシン派と呼ばれる彼らは、当時のソムチャイ政権がタクシン元首相の傀儡政権だと批判し集まった。多くは都市部の中間層だという。今の時代、空の玄関口は外国との接点だ。それを閉鎖せざるを得ない事態は、国際間での信頼を大きく傷つけた。

そして、政権は変わった。若く、精悍な顔つきのアピシット首相。その彼を襲ったのは、これまた国際関係上、非常に重要な場でのこと。延期されてようやく開催にこぎ着けた東南アジア諸国連合(ASEAN)の開催まっただ中。タイ中部のパタヤでは、この会議に合わせて多くの首脳会談が予定されていたが、各国首脳が非難するという事態に陥ってしまった。サミットなど、国際会議を開催する国は、それを無事にやり遂げるか否かの「信頼」を負っている。それを全うできなかったという失墜。国際社会は、タイに対して、国際空港の閉鎖に続き、今回の件でかなり厳しい目を向けたとも言われている。

黄色vs赤。赤いシャツの集団はタクシン派と呼ばれる。お金で雇われたとも言われるが、この集団は都市部ではない、そしてどちらかと言えば貧しい層の人たちが中心。そんな彼らに、タクシン政権は優しかったのだ。

タクシン後、タイの政局はどうなったのか。簡単に辿ると、、、タクシン政権を倒したのはソンティ陸軍司令官のクーデターだった。その後、スラユット政権を打ち立てるが、内政がうまく行かず選挙で敗退。勝利したタクシン系のサマック政権は、昨年8月の大規模な反政府勢力(黄色シャツ)のデモにあい退陣。その後、タクシンの義弟ソムチャイが首相に就くが反政府勢力のデモは収まらず、規模は膨らむところまで膨らみ、ついに国際空港閉鎖という事態にまで拡がってしまう。そして、事態収拾を狙ったのか、タクシン派の人民の力党が選挙違反をしていたと憲法裁判所が判決を出し、解党を命じる。その後の選挙でタクシン派を破って首相に就いたのが現在のアピシット首相ということになる。イギリス生まれ、華人の両親。オクスフォード大学卒業。いわゆるエリート層の、黄色いシャツの代表だ。

ピープル・パワー。フィリピンで使われるこの言葉は、街に出て、訴えて、「国民」の力で政権を交代させる。一見、素晴らしい言葉のようにも思うが、それを繰り返すとただの駄々っ子のように映ってしまう。つまり、黄色いシャツがデモをして、その代表が首相になれば、今度は赤シャツのデモ。もし、また赤シャツの代表が首相になれば黄色いシャツが街に溢れるのか?これは、白か黒かならぬ「黄色か赤か」の選択で、そのどちらが選ばれても、すぐに負けた方が街に出て「駄々をこねる」という構図だ。

支持層が違うので、お互いの正義や正しさも違うのだろう。それを多数決(選挙もしくは該当での大規模デモ)によってどちらか一方に決めようとするから「役に立たない」。もっというなら、街に出てデモをしている人たちの一本裏道では、同じタイの国民がソンクラーンの水掛祭でうれしそうに水鉄砲を構えていたりする。つまり国を二分する「支持層」ではない赤と黄色が、お互いの不満のために「国」を停滞させているのだ。

僕はタイという国、それもバンコクの、ありきたりだがカオサン通りの雰囲気が大好きだ。タイ語の優しい響きも、彼ら・彼女らの笑顔も。本当にいい。なにより、燦々と輝く太陽の、あの陽気。赤だ、黄色だと言うのをやめて、二つを混ぜた太陽の「オレンジ色」の道を、探るべきだろう。国王はお年を召されている。それでも、今の現状を憂いておられるはずだ。国民的に、敬いや礼儀の徹底した仏教国(南部にイスラム教徒も多いが)のイメージがある。そんな彼らの元の姿に、一日でも早く戻って欲しい。

民主主義への過渡期で、国が混乱するのは仕方ないという人もいるだろう。が、あっちがダメならこっちという政権交代ではなく、端から「ダメなものは交代させろ」という前提で街に繰り出していたら、いつまでも終わらない。

冒頭のMr.Childrenの歌詞ではこう続く……
「白と黒のその間に 無限の色が広がってる 君に似合う色探して やさしい名前をつけたなら ほら 一番きれいな色」と。

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