SPEECH
Speech (1996年発売)

Can U Hear Me?
Ask Somebody Who Ain't (If U Think The System's Workin'...)
Filled With Real
Why U Gotta Be Feelin Like Dat
If U Was Me
Impregnated Tid Bits Of Dope Hits
Let's Be Hippies
Freestyle #8 From Speech's Vault
Like Marvin Gaye Said (What's Going On)
Hopelessly
Insomnia Song
Poor Little Music Boy
Ghetto Sex
Tell Me Something (Let Me Know)
Runnin' Wild




マイクロフォンのチェックから入って「聞こえるか?」と問いかける始まり。よくあるそんなものでもスピーチがやると特別に、とにかくカッコイイ。本名Todd Thomas。アレステッド・ディヴェロップメントの活動を終え、96年ソロで始動した記念すべき1枚目のアルバム。間違いなく名盤。『Can U Hear Me?』と問いかけたあとは、咳払いで気持ちを取り直して切々と「彼女」とのことを歌い上げる。“本物”で満たそう、というメッセージはこちらこそクラクラする『Filled With Real』。

僕が高校生の頃、通っていた英会話の先生が「今、アメリカで一番クールな音楽」といって貸してくれたのがアレステッド・ディヴェロップメントの「3 Years 5 Months And 2 Days In The Life Of 」というアルバムだった。正直、何を言ってるのかさっぱり分からなくて、歌詞カードなんてものもないので、その早口を、えっ?何、何…と言葉ばかりを追いながら、「あんまり好きちゃうな」と思った記憶がある。

で、大学に入ったばかりの頃、海外へ行きたい、いやもっと言うと明確に「アメリカ」に行きたいと思い始めていた僕は、それっぽいモノにカブれるつもりでCD屋に行った。アレステッド・ディヴェロップメントのリーダーがソロで云々というポップを見て、「どっかで聞いたことあるな」と思いながら試聴。先述の始まりに、「カッコええ」と思った。

しばらくしてアメリカに行った僕は、ホームステイ先の息子、18歳のジャイが、車の中でガンガン聴いている音楽の一曲に、「知ってる」曲があった。それが、スピーチの『POOR LITTLE MUSIC BOY』だった。日本ではヒップホップがまだまだアングラだった時代、この畳みかけてくる言葉の波は、とにかく良かった。ジャイの高校で野球をして、帰り道、名前は忘れたが地元のバーガー屋で買ったポテトとペプシを飲みながら、車で聴いた夕暮れ、ものすごく懐かしい。人見知りの激しかったジャイと、あまり話せないまま一週間を過ごしてから、始めて、ジャイが僕に話しかけたのが、「クールだろ?この音楽」。いや、懐かしい。
今でも好きな一曲。

POOR LITTLE MUSIC BOY MAKIN' A SOUNDTRACK
TO AN GOING MOVIE THAT HAS NO ENDING

POOR LITTLE MUSIC BOY MAKIN' A SOUNDTRACK
TO AN GOING MOVIE THAT HAS NO ENDING

RICH LITTLE BLACK KID SEE WHAT U DONE DID
TAPPED INTO A WORLD OF NO-SENSE & NO-TENSE
MAYBE JUPITER IS CRYING TONIHT, MAYBE?

言葉を追うのを止めてから、僕はスピーチにはまった。
とにかく、こう痒いところをちょうどいい力加減で掻いてくれるようなリズム。聴いていてとても心地いい。

音にのりはじめると、何度も聞くうちに少しずつ言葉も分かってくるもので、「たぶんこんな感じのことをゆうてるんやろな」と思うと、すっごい深いメッセージが込められていたりする。

一番すきなのは『Let's Be Hippies』。
クスコの町で、ひとりその気になって口ずさんでいたのをすごく覚えている。あの頃、就職して、社会人一年目の緊張感が少しずつ切れかけてきて、「あぁ、このまま何十年も代わり映えもないのかな」なんて思うと、旅してることがものすごく貴重に思えたりして、思わず……

FLOWERS, PETALS, SUNSHINE......
LET'S BE HIPPIES FOR JUST ONE NIGHT
LET'S JUST KISS & AND HOLD EACH OTHER
LET'S BE IGNORING THE WORLD AROUND US
LET'S BE IGNORANTS TO REALITY TONIGHT
PLEASE PLEASE PLEASE


スピーチの曲には、生まれたこととか、生きていく事とか、血統とか、祖国とか、オリジナリティとかパーソナリティとかアイデンティティとか。全部、間違いなく、リアルなんだという強いメッセージがある、ように思う。そこが、いい。

YOU MAKE ME WILD YOU DRIVE ME WILD
I'M RUNNING WILD

アルバムは、全力で駆けだす「はじまり」で終わる。



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