向こう三ヶ月のストライキ予定表、なるものが配られ、それを回避しながらツアーを組み立てる。旅行を生業にしていた当時、僕は何度もこの「スト」ってやつに泣かされた。空港職員、航空会社の客室乗務員、パイロット。バス会社職員や美術館職員、挙げ句の果てには「パブリックな施設は全て今週の土日がスト」、なんてこともあった。一生に一度、憧れのヨーロッパを旅したいとの思いからツアーに参加した人たちにとっては、こんなに迷惑な話はない。(今時、一生に一度!なんて重〜い感じの人も少ないが)。
如く、ヨーロッパではストライキは労働者の権利として確立している。賃金交渉がその主とされ、管理職がかり出されて飛行機を飛ばした、っていう話も聞いたことがある。

「狼少年」の話。来たぞ、襲われるぞって言いながらほくそ笑んでいた少年の哀れな続きから、「やりすぎ」にはご注意っていう、ある意味そんな忠告を僕はかぎ取っている。ストライキをするぞ、って脅しが「歩み寄り」で回避され、また元通りになったら、ストで脅す。そして回避。スト情報とその回避の繰り返し。
そのうち、「今週末、空港職員のストライキ」というニュースを聞いても、「まぁ、どうせまた回避だろ」とのんきに、そのままツアープランのブッキングをキープしていた。

日本プロ野球の70年の歴史の中で、初めてのこと。それが、選手会によるストライキだった。降って湧いたような合併問題、「たかが選手」という経営人の本音?、何百万円という食事代でものにしようとしたドラフト問題。今回のストは、ファンよりも、選手が球団から離れた結果なのかもしれない。なにも今年だけの問題ではない。近鉄球団からローズの放出、松井のメジャー進出、古くは江川と小林。ドロドロしてるなぁ、という印象はファンの気持ちの中にもしっかりと、ある。結局は、宣伝費の一部だという簡単で単純な考え方をとっくに超えてプロ野球が存在することが原因なのだろう。
確かに、野球は楽しい。大相撲と卵焼きぐらいしか「ライバル」の無かった時代とは違い、今や多様化するプロスポーツのエンターテイメントの中で、それでも、しっかり「楽しませてくれる」存在で、少なくとも、僕にはある。
見たいと思ってチケットを買った人の多く、自分の買った試合がストで無くなったとしたら、前述のツアー客同様に迷惑な話だと思わざるを得ない。そういう人たちにとって今週のスト回避は、やっぱり「良かった」と思えるに違いない。

よく出てくるのが「プロ野球は【夢】を売る商売であり、だから普通の労働者とは違う」という発言。一方で「労働組合として認められている」という側面。っで、労働組合は経営の大きな流れに対して意見するようなことはあり得ない、などというとんちんかんなオーナー達のマインド。それでいて、結びの言葉は「ファンのため」。
モノを造ってがむしゃらに売り、大きくなって球団をかった。そして選手を集めて、見に来る人たちから「もうひと儲け」しようと考えるあまり、赤字、赤字、赤字の経営に陥った。どうしたら儲かるか。その思考回路が行き着いたゴールが「1リーグ制」ってことなのだろう。
はっきり思う。経営の勝利者たちが運営する株式会社ニッポンにおいて、「夢」のお取り扱いは避けるべきではないか、と。
近鉄とオリックスが大きなダムに小さな穴を開け、一気にパ〜のオーナーたちが便乗した「儲け話」のようにうつって仕方がない。それが今回のスト問題をみた僕の感想だ。阪急がオリックスに、南海がダイエーに。近鉄がライブドアに。この流れってそんなにおかしなことではないような気がする。もっと言えば、オリックスが某メーカーに、ダイエーが海外企業に、そうなったとしても不思議はない。変わらず、セ・パ6球団の大原則は崩れなかっただろう。問題にするとすれば、金でかき集めた「弱い」ドリームチームをなんとかしよう、ということだけじゃないの?

結局は、「おれのもんだ!」的なオーナーたちが、だから、どうしたってかまわないじゃないか、と傲慢に考えるのではなく、「他には負けないうちだけのもの」「ここだけはうちの自慢」というお得意の経営パフォーマンスで「集める」しかないだろう。
ストと回避を繰り返し、一年以上もストを決行したメジャーリーグ。メジャーは年俸問題だが、日本のプロ野球は違う、と意義高く語っている方もおられるが、チケットを買って楽しみにしている者にとっては同じスト。
せっかくやるなら、妥協点を探しながら「回避」を続けるのではなく、とにかく素早く「決着」してくれることを願う。決着し、再び動き出したとき、メジャーにNOMOが現れ「ノモマニア」が出現したように、きっと底力のあるプロ野球界には、救世主のような魅力が出てきて復活すると思う。僕はそう信じる。
だから、言いたい、やると決めたらなら徹底的に、そして迅速にお願いします、ね。

→ essay top



スト

2004年9月11日