まずは、読んでいると「旅」気分に浸れる「たびぼん」を集めた本棚から。

強烈な写真と言葉のインパクトの中で溺れてながら見る世界。

「ショットガンと女」
藤原 新也 (著)
出版社: 集英社インターナショナル (2000/11/2)

香港的カオス(混沌)、異文化融合「クレオール」・隣国とのつきあい。日本人と韓国人、中国とチベット、インドとネパールやパキスタン、ベトナムとカンボジア、アメリカとメキシコ、ドイツとポーランド、そしてイギリスとアイルランド。ある国のかたわらには常にその差別と収奪の対象となった国が隣接している。イギリスのクロムウェル(プロテスタント)の宗教改革でカトリックでアイルランド人に対して虐殺の限りを尽くし、西の不毛地帯に追いやる。クロムウェルは世界で最も残酷な詩を詠んだ、「吊す木もない。流す水もない。埋める土もない。」

バックパッカーが旅の途中で見つけるパラダイス。そこに存在する独特のコミュニティー。その中で、リチャードは葛藤と真実に似た何かをつかみ始める……。具現化された「映画」よりも想像を膨らませた本の方が面白かった。すべてが終わってみれば、ぜんぶ旅先の話し。思い返せば普通の思い出となる。が、そこにそれ以上の、現在につながる何かも見え隠れする。

「ビーチ」
Alex Garland (著)
出版社: アーティストハウス (1998/12)

コミュニティ イン パラダイス。崩壊へ向かうまでの幸せな日々。

普通に書いたのではなく、事実をそのままに?というテーマであるだけに、かなり「すさまじい」内容。例えば?にならないレストランの裏社会。どんな連中が食事を作り、提供しているか。人気のあるレストランの裏側は実はどんなからくりか。そんなものを楽しく?へぇ〜と納得しながら読める内容になっている。読み進めながら強烈に「ニューヨーク」が感じられるところも面白い。

「キッチン・コンフィデンシャル」
Anthony Bourdain(著)
出版社: 新潮社 (2001/10)

ニューヨークを舞台にしたレストランの話。

舞台はメキシコの南東部辺境地チアパス州。カメラマン志望の日本人香月哲夫が旅をする。同行者は身ぐるみはがされた夜に出会った行商人タランチュラ。彼の中に色濃く残る復習の念。それを知ってから非日常的な生死の境を行ったり来たりする。彼の中の開放感、そこにある非日常。この作品からは世間一般の道徳観からは見えてこない生きている実感が感じられ、それは同時に死を身近に感じさせもする。

「午後の行商人」
船戸 与一(著)
出版社: 講談社 (2000/09)

人間の中に宿る暗い影、それは復讐だった。

オーナーのジャネット・ワトソンを一人称にして、この本屋にかかわったスタッフ、常連客、アーティスト、作家のアンケートを元にかきあげたノンフィクション。20年。本を愛し、ベストセラーに振り回されず、ディスカウントの波が押し寄せ、チェーン店が幅をきかせるようになるニューヨーク、1978年から97年までをかたくなに「本」にこだわり、リーディングを開催し、落ち着ける空間、独立系書店としての持ち味を遺憾なく発揮した、壮絶な歴史。最後は、資金不足だった。ビジネスとアート。そんな側面。史実と当事者達の気持ち(生の言葉)で紡ぐ本当に面白い一冊。

「ブックストア―ニューヨークで最も愛された書店」
Lynne Tillman(著)
出版社: 晶文社 (2003/1/30)

ニューヨークで最も愛された本屋「ブックス・アンド・カンパニー」。

言わずと知れた世界一有名なガイドブック。ハイライトで巡ったあとはBackgroundでその「街」を流し読み。IntroductionからNeighborhoodsまでは、「旅先」よりも自宅でのんびり読み物としても楽しめる。旅先では、EATINGやTHE ARTS、SLEEPINGで具体的なホテルや店、ミュージアムなどへ。写真が多すぎて中身がちょっとスカスカ気味というガイドブックが主流の中で、ロンプラはやっぱりこうでなくちゃ、と思わせてくれる。

「Lonely Planet New York City」
Ginger Adams Otis, Beth Greenfield, Robert Reid, Regis St. Louis(著)
出版社: Lonely Planet; 7版 (2010/08)

空港や駅の待ち時間、天気の良い土曜の昼前のベッドサイドのお供に最適。

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18人のインタビュー。ヴィム・ベンダースは新井氏が編集長をつとめ、この雑誌を創刊するきっかけになった人。井上陽水はインタビュー形式の筆談で、「好きな歌は?」と聞かれて、「全部の曲をかいた紙飛行機を飛ばして、いちばん遠くまで飛んだもの」と。ドリカムの吉田美和の北海道・実家の原風景、桜井和寿のサーフィン、桑田佳祐のミレニアムの夜。勝新太郎、デニス・ホッパー、Cocco。岩井俊二の香港の夜や野田秀樹、そして深津絵里、宮沢りえ。寺島進、松たか子、市川海老蔵(新之介)に福山雅治。言葉を綴ったと言うよりも、それぞれの人をしっかりと捉えた一冊のモノガタリ。『路地は産道のように吸い込まれる』というのは荒木経惟(のぶよし)。

「人、旅に出る SWITCHインタビュー傑作選
新井 敏記 (著)
出版社: 講談社 (2005/9/15)

休日をつかって、ゆっくり、ゆっくり、家で読みたい18人のモノガタリ。

東京するめクラブというゆる〜いクラブがあります。この「中年トリオ」が、色々旅した記録本。大秘境でもなく、最新トレンドスポットでもない。聞いたことはあるけど、いったことのない、なんというかそう言う微妙かつ絶妙な旅先で、まぁ、言ってみればどーでもいいことに「幸せ」を感じてしまいそうな写真とテキストを満載している。1)名古屋2)熱海3)ハワイ4)江ノ島5)サハリン6)清里

「東京するめクラブ 地球のはぐれ方」
村上 春樹、都築 響一、 吉本 由美(著)
出版社: 文藝春秋 (2004/11/10)

【ちょっと変なところにいって、ちょっと変なものを見てまわろう】をコンセプトに

「旅とは何か」という問いに、大槻文彦が『大言海』で記した定義、「家ヲ出デテ、遠キニ行キ、途中ニアルコト」というものを挙げている。旅は、途上にあること。なるほど。カポーティの『ティファニーで朝食を』のホリーが名刺にかいている「トラベリング」(旅行中)。自分の居場所に旅行中と書く、このセンスに、ぼく自身も共感をもった。ロケーション(URL)を自分の故郷と置き、帰る場所としたなら、途上を旅する人生は、まさに「旅」だ。「旅する力」として、なんでも食べられる「食べる力」、そして呑める(そこでたくさんの人と知り合える)「呑む力」、さらには人の話を聞き、人に訊ける「聞く力」と「訊く力」をあげたのは素晴らしい。そして、旅に出て身につく力として、「予期しないことが起きるということを予期する」というのは名言だろう、生きていく上でも。

「旅する力―深夜特急ノート
沢木 耕太郎(著)
出版社: 新潮社 (2008/11)

沢木耕太郎が「深夜特急」を語る、「深夜特急」の最終便。

町田康という作家を好きになった記念すべき一冊。短編の連発で、「読んだぞ」というずっしり感はないが、やっぱりいい一冊。占い師を求めてさまよう『犬死』、町内会やご近所さんとのつきあいにおいて、心の中の駆け引きを描いた『どぶさらえ』、時代が早すぎたと勘違いする男と、その後ろに続く踊る女を描いた『あぱぱ踊り』、こんな街、あるようでない『本音街』、一番面白かったかもしれないという、東京に現れた怪人『ギャオスの話』、古代と現代を錯綜させ、そうはいっても共通してるでしょ?という『一言主の神』、最後は会社内でのこういうやついる、いるという『自分の群像』。日常生活の「あり得るかも知れないトリップ」に最適の作品。

「浄土」
町田 康 (著)
出版社: 講談社 (2005/6/6)

キレのいい関西弁が気持ちいい。たとえば、「おもろ」とか。

陸で育ち、悪政批判だと噂がたち罰せられ、海の上で生活をしつつ陸に戻り、50歳を目前にして再び大空へと飛んだ幸吉。実話なのかどうか、調査は進むが確信はない。ただ、成長して金を稼いで結婚して「落ち着く」。そのルートを拒み、縛られることを否定した男、このままではいけない変化を求めた、まさしく冒険小説。江戸時代の豊かな者だけが儲かる社会のシステムも丁寧に描かれ、それに反旗を翻す物語性も十分だった。空を飛びたいことに挑戦した一人の人間のフィクションとして面白い。

「始祖鳥記」
飯嶋 和一 (著)
出版社: 小学館 (2000/01)

空を飛ぶこと自体が罪だと言われた時代の鳥人物語。

まず、タイトルが素敵だと思った。これは文芸誌に掲載した短編集。どれも日常の些細な、だけどその中にある「できごと」の、目のつけ所が吉田修一氏らしく、やっぱりこの普通に見えてそうじゃない、一つの文章にビシビシと反応してしまうところが、好きだなぁ、と。後輩社員との関係や男に痴漢された「男」の話なんかが続く。最後の『キャンセルされた街の案内』が一番いい。長崎の軍艦島。廃墟とかした高層アパート、超人口密度の高い島。その島の「いんちき」ガイド。子ども時代と、現在の生活と、小説をかいている、その物語の中の話と。見事な混在ぶり。抄録>>>「軍艦島へ渡るたびに思っていたのだが、いるべきものがいない時の恐怖と、いるはずのないものがいた時の恐怖とでは、一体どちらが不気味だろうか?」

「キャンセルされた街の案内」
吉田 修一 (著)
出版社: 新潮社 (2009/8/22)

日常の些細な出来事を綴った短編集

エルサルバトルに単身渡り、若い頃からコーヒーを研究した著者は、自らをコーヒーハンターと呼ぶ。17世紀、世界中から物珍しいモノを見つけ、ヨーロッパに持ち帰ったプラントハンターと一線を期すため、彼は生産国と消費国が双方に有益な関係が保ち続けられるよう、サステイナブルを心情とするハンターだと。ジャマイカのブルーマウンテン、ハワイのコナ、スマトラのマンダリン。生産農園の開発、品種の改良。土地土地にあったコーヒー豆を研究してきた。その中で、ブルボン島という島にあった幻のコーヒーを追う。マダガスカル島の近く、インド洋に浮かぶ小さな島は、レユニオン島と名前を変え、今やコーヒーの存在が忘れ去れていた。その品質の高さに見せられて。足かけ7年、要約製品にまでこぎ着けるまでのノンフィクション。幻のコーヒー「ブルボン・ポワントゥ」復活までの軌跡を描く。

「コーヒーハンター―幻のブルボン・ポワントゥ復活
川島 良彰 (著)
出版社: 平凡社 (2008/02)

100グラム7500円の超希少、超薫り高いコーヒーを求めて。

完全にフィクションでありながら、そうとも言い切れない「現状」が、いかにも時代を反映しているというか。テロ対最先端の施設警備システムROMES。海上にぽっかり浮かんだ関西国際空港がモデル。空港建設に成田ほどの諍いがなかったこと、各フロアに段差が一切ないこと、24時間使用できる設備を整えていること、海上なので騒音問題がないこと。なのに、空港を利用する便が少ないので「宝の持ち腐れ」状態になっていることや、その為に、会社側は躍起になって世界中を営業で飛び回っていることなど。え?ノンフィクション?と思わせる箇所があって読み応え充分。もちろん、ストーリーも興味深く、人物構成が緻密なので一気に吸い込まれる。誰が犯人?というなぞ解きではなく、「なんでそうなるの」という核心部分を、膨大な知識と情報でまとめ上げられているので一気に話の中に吸い込まれる。テロvsシステム(機械)は、結局、人間vs人間であることを懇切丁寧に示してくれている感じが面白い。

「ROMES06
五條 瑛 (著)
出版社: 徳間書店 (2006/10)

テロ vs システム。空港を舞台に繰り広げられる人間模様が面白い。

生まれ育ったが、よく知らない土地。そんな日本の端、歴史から忘れられた土地。太宰治が竜飛岬へと旅をを続ける、幼い頃の記憶などを辿りながら。抄録「成金主義ではない本当の上品」→奥の細道で松尾芭蕉は『他の短を挙げて、己が長を顕すことなかれ。』 「本州の極地である津軽半島は、それでも国防上、ずいぶん重要な土地である。」「まったく、津軽の歴史は、はっきりしないらしい。ただ、この北端の国は、他国と戦い、負けた事がないというのは本当のようだ。服従という観念に全く欠けていたらしい。」終わり方がいい。「・・・津軽の生きている雰囲気は、以上でだいたい語り尽くしたように思われる。私は虚飾を行わなかった。読者をだましはしなかった。さらば読者よ、命あらばまた他日。元気で行こう。絶望するな。では、失敬。

「津軽
太宰 治 (著)
出版社: 岩波文庫

太宰治が生まれ故郷の津軽半島へ。

ゼロ年代という世界中がテロ、テロの背景で、この「虐殺・フィクション」はぐ〜っと奥深いところをついている。一つひとつが詳細で「具体的」だ。プラハ、インド、ヴィクトリア湖。世界中を駆け回るアメリカの軍人。一人称主人公の「ぼく」ことクラヴィス・シェパード。アメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の大尉。心理操作とハイテク装備によって優秀な殺戮機械となり、紛争地域へと潜入して任務を遂行する。「人の指示(意思)殺戮をする」。感情(罪悪感)をコントロールする。スターバックスの永遠、ドミノ・ピザの普遍性。そんな日常とは違う「面」。それを「生み出す」人。そんなジョン・ポールを追い、追い詰め、最後は「そんな人」になるという。ここまで「ありえそう」な世界観は素晴らしい。ヴィクトリア湖で淡水に適応したクジラやイルカの肉で人工筋肉をつくったり。女性との恋。それもやっぱりある。ルツィア・シュクロウプ。そして根底には、母の死。延命処置を「断った」自分。その自分に対する「罪と罰」。そんなストーリー。

「虐殺器官
伊藤計劃 (著)
出版社: 早川書房 (2010/2)

頭の中の大冒険。近未来のバーチャルトリップ。

民族音楽。それもマイノリティのアフリカ音楽。楽器の名前、古今のアフリカの音楽事情を巡る紀行文。著者自体、芸大で音楽をやり、アフリカに長期滞在し、そこで感じた音を素直に記すところがいい。狩りに出て、森の中、弓を張り、獲物を追う。その、静寂。その時きこえる鼓動。その、リズム。三拍子の唄に二拍子の拍手を入れるアフリカのリズム。アフリカに独特にある音楽は、小さいときから学校にも通えず、自然の中で学び、しかも、「それをよく訓練する」過程でアフリカ人のリズム感が生まれる。フィールドワーク、まさに現地に飛び込んで得た「音」の記述が面白い。

「アフリカの音の世界―音楽学者のおもしろフィールドワーク
塚田 健一 (著)
出版社: 新書館 (2000/06)

「音」を中心にした紀行文仕立て。古今アフリカの音楽事情。

読んでいてこれほどに面白い作品はないとさえ思える。それは、日本とアメリカという混血(あいのこ)であり、それも第二次世界大戦という激動期に産まれ、さらに、その二つの国から「認められた芸術家」であることが大きい。京都という街を愛した。そして、日本人になることを「諦め」、アメリカにいっても「アメリカ人」になれなかった。どちらにも属すことのできない「あいのこ」。生涯を通じて結婚したが子供はなく、それでもずっと「女性」が身近にいた。そんな、孤独でありながらザ・芸術家という生涯が、やはり面白い。西海岸、ニューヨーク、東京、京都、牟礼(四国)、パリ、イタリア、インド。定住を拒んだ彼の生き様は「旅」だ。石と出会ったとき「地球の骨」だともいったその自然の力。彫刻という分野を、一つの作品にはとどめず、空間ごとを作品にしようとしたその姿勢。人に「恵まれ」家族に「恵まれなかった」生涯。一人の人生として、これほどに波瀾万丈なのは、やはり追跡すればするほど凄まじく感じる。

「イサム・ノグチ(上)(下)
ドウス昌代 (著)
出版社: 講談社 (2003/7/15)

圧倒的なノンフィクション。84年間のイサム・ノグチの生涯。

古代エジプト、南米の黄金。太陽の色に近く、加工もしやすかった金は、世界史上でもてはやされてきた。そんな歴史の帯を中心に纏め上げた一冊。プロローグ 黄金文化の探求を、その後、第1章 古代の黄金、第2章 地中海世界とインド洋世界、第3章 世界貿易の拡大時代、第4章 地中海から大西洋へ、第5章 大西洋時代、第6章 近代の黄金と続く。興味深いのは、貿易が盛んになる中で、「銀」が金の価値をぬいたり、イタリアの織物との交換、はたまた中国の磁器などにとってかわったりと。それでもやはり金はずっと重宝された。エル・ドラード。南米にあった黄金郷を目指した探検、はたまたブラジルでおこったゴールド・ラッシュ、サンフランシスコ、オーストラリアのゴールド・ラッシュ。一攫千金は、昔も今も変わらない。貨幣基準となった金本位制にまで話は及んで、現代の、つまりは南アの状況までも網羅する。が、アメリカのドルと金の換算が崩れてから、今年、また金が上昇などの状況を説明して終わる。

「黄金の世界史」
増田義郎 (著)
出版社: 講談社 (2010/12/10)

黄金の魔力の謎に迫る、一冊。世界を魅了した「金」の話。

カール・ロスマン。ドイツ人青年が移民として新大陸アメリカに渡り、そこで移住を続ける。裁ち切りと連鎖。ドイツにいた頃の生活が根底にありつつ、新しい経験が蓄積されていく。ニューヨーク。船の上から物語は始まり、富豪の親類に引き取られ、郊外へ行き、そこを抜けだしロビンソンとドラマルシュとで出会い、オキシデンタル・ホテルで働き、ブルネルダの屋敷に行き、最終的にはオクラホマ劇場へ。全部で八章。点々とする孤独な青年に不思議な繋がり。これは放浪ものか?それとも人生とはそういうものだ、という提示か。最後、自然豊かな描写をもこしアメリカという「国」を移動するシーンで終わる。これは、おそらく、本当の「終わり」ではないことを感じさせつつ。

「アメリカ」
フランツ・カフカ (著) 中井 正文 (訳)
出版社: 角川書店 (1972/1/30)

困難と災難を切り抜ける、「アメリカ」放浪物語

切なくユーモラスな短篇集。ベネチアのサンマルコ広場で演奏する流しのギタリストが垣間見た、アメリカのベテラン大物シンガーとその妻の絆、ほろにがい出会いと別れを描いた「老歌手」が一番面白かった。タイトルでインスピレーションをうけた「Come Rain or Come Shine」。昔の友達が結婚して、その夫婦の間の奇妙の仲介を描く。「モールバンヒルズ」は、若者の静かな休暇と、長年連れ添った夫婦の危機をからめる。若者は音楽の才能がある?という話。うだつがあがらないサックス奏者が一流ホテルの特別階でセレブリティと過ごした数夜を回想する「夜想曲」。これは才能がある、のと、表彰される人の間というか。そういうものを描く。最後の「チェリスト」まで音楽をテーマにした五篇を収録。ぼんやりと異国の風景を思い浮かべて気分が盛り上がる一冊。

「夜想曲集
カズオ イシグロ (著)  土屋 政雄 (訳)
早川書房 (2011/2/4)

サブタイトルは「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」

キューバ、リオ・デ・ジャネイロ、小笠原諸島、ツバル、カトマンズ、サハリン、南大東島、ダラムサラ。そんな「行き先」がいい。そして特に似顔絵がいいが、文章もすごくいい。人の人生に深い。もっと早くに出会っていれば、かなりお気に入りの一冊になったような気がする。
地球は小さくなっている、と思う。技術の進歩、グローバル化。そんな流れから取り残された土地。「例えば、大国アメリカの影に輝くカリブ海の真珠。二四時間以上、船に揺られなければ辿り着かない東京都。日本にもっとも近い欧州に埋もれつつある朝鮮人の歴史。新興国インドで繁栄から置き去りにされた異民族の村 。東京からおおよそ丸一日以上かかるような交通の便の悪い場所には、消えかけている、何かが残っているように思う。さあ、出かけよう。少々不便で、素敵な場所へ。ぼくはそれを辺境と呼ぶつもりだ。」

「辺境遊記
田崎健太(文)、下田昌克(絵)
英治出版 (2010/4/19)

“不便で素敵な場所”への旅

アートミステリー。そんな言葉は著者のアートに関する知識の深さか。読みやすい文体で、その世界の中にどっぷりとはまらせてくれる原田マハ作品。その中の傑作との呼び声が高く、読んでみて、まさしくそうだな、と。アンリ・ルソーの生きた「1906年〜10年のパリ」と、織絵とティムが講評会をした1983年のバーゼル。そして、大原美術館で働き、ニューヨークのMoMaに向かう2000年。この時間軸を行き来する「空間」が、なんとも緊迫し吸い込まれる時間だった。アンリ・ルソーという日曜画家の評価が定まらなかった時代から今の巨匠としての姿。何より、飢えたライオンや夢の持つ圧倒的な絵の力。そこに女神・ヤドヴィガが手のひらを「閉じた」作品、「夢を見た」。さらにはその下に眠るブルー・ピカソ。次々に出てくる事柄に吸い込まれ、最後は心地いいほどにまとまっていきながら、ラストの大どんでん返し。本当に見事!な作品。

「楽園のカンヴァス
原田マハ(著)
新潮社 (2012/1/20)

カンヴァスに塗り籠められた真実に迫る

ことりっぷはその町の雰囲気をちゃんときりとっているかというと、どの町もことりっぷのように見せていると思う。が、この本は、ブルックリンの光というか、雰囲気が濃厚。昔「京都人がご案内する京都」なんて雑誌があったが、その土地から密着型で発信される情報には、説得力がある。そして何よりブルックリンという街の魅力が凄すぎる。ロンリープラネットの文字だけの情報でも、本当に魅力的だ。が、ガイドブックというよりは「本」としてダイブするなら、このビジュアルはあまりにも魅力過ぎる。こだわりの本屋やレコード屋、はたまたデリやパン屋さん。現在進行形で変化している「今」の姿の記録用としても、十分に価値ありだと思う。

「ブルックリン・ネイバーフッド NY・ローカルガイド
赤木真弓/藤田康平(著)
スペースシャワーネットワーク (2012/4/20)

現在進行形で変化するブルックリンの「今」の形

ビシビシくる言葉の連続!スペースの許す限り抄録を。「あらゆる場所を遊び場にできるような軽やかさと、アートが影響力を持つことの重みを、もう一度考え直してみたほうが良いと思います。」「アートは世界を変えます。アートは直接的に物事を変えるわけではありませんが、ものの見方を変えます。アートが変えるのは世界の見方です。」「人間の行動をすべて法律や倫理でぶった切るのではなくて、なかばジョークによってお互いのユーモアや寛容度をテストし合う。そうやってジョークが通じる新しい社会を生み出していく。」「いま起きていることにどうレスポンスするかという反射神経がさらに必要になってくるでしょう。」「悪の方が表現にとって魅力的な場合だってよくあります。昔から天国よりも地獄の描写が豊かなのはそういう理由だってあるかもしれません。」「「自分がひっくり返ること、それは時代を動かす大きな一歩にもなりうるものです。ひっくり返すも返されるも自分。世の中の動きは自分自身の動きと間違いなく連鎖しています。社会の動きに自分が応え、それに社会がまた応え、そのノリの良さとスパイラルの遠心力次第で、時代の更新の度合いは大きくも小さくもなるのです。」

「芸術実行犯
Chim↑Pom(チン↑ポム)(著)
朝日出版社 (2012/7/7)

反応する反射神経の良さがすべて。

「空」と「飛行機」をモチーフにする作品や資料を通して、芸術的な側面から見ていく展覧会。その図録でもカタログでもない「副読本」、つまりは読み物としての一冊。読めば読むほど、展覧会に「行きたかったな」と悔しくなる。ライト兄弟が空を飛んだ1903年から110年、この1世紀の間で、特に2つの世界大戦を機に飛行機は信じられないスピードで進化した。この本は、まず「イカロス」の物語から始める。ギリシャ神話の空を飛ぶ物語。飛ぶ快楽におぼれ、太陽に近づきすぎて墜落する物語。その後、ルネッサンス期のレオナルド・ダ・ヴィンチ、小説家であり飛行家でもあるサン=テグジュペリ、大西洋を渡ったリンドバーグに第一次世界大戦のドイツ軍、「レッドバロン」の異名で知られたマンフレート・フォン・リヒトホフェン(ガンダムに出てくるシャア・アズナブルのモデルといわれる)まで飛行への挑戦を書く。日本編では日野熊蔵、徳川好敏などを。気球の話を挟んで、今度は鳥瞰図(俯瞰図)の空からのアートを詳しく説明する。丹下健三が構想した、東京湾を機能によって分化したエリアを橋でつなぐ「東京計画1960」や、黒川紀章が提案した、農地の上の空中に建物を配置する「農村都市計画」など、空かの視点として紹介されているのも面白い。飛行機を語る上で外せない戦争期の話。絵画や資料をつけて長く説明されている。藤田嗣治ではないが、この戦争期に戦地で戦闘機を描き、戦後、それが「自粛」へ繋がる世論は、彼でなくても日本から飛び出したくなるかもしれない。戦後、戦争経験者がアニメや漫画で飛行機を扱う。プラモデルのブームも、飛行機にとっては大きい。そんな「戦争の影響」が薄れ始めると、飛行機を使ったアートは、石田徹也や池田学らが担う。特に、池田学の「氷窟」はすごく不思議な絵だ。O JUNの「着陸」はすばらしいの一言。飛行機が飛ぶための揚力を受けて、効率よく「流す」ための流線型。飛行のメカニズムとフォルム、そしてデザインにも注目するあたりが興味深い。プロペラについて、マン・レイの写真などを交えて6ページにわたってその美が語られている。プロペラは、確かに美しいと思った。戦闘機から民間機へ。飛行機造りを禁止されていた日本が、半官半民で日本降雨を1952年に立ち上げ、ダグラスDC-4Bで自主運行を開始している。今も復活したJALの鶴丸。このデザインは原案を宮桐四郎、図案をヒサシ・タニが担当している。エアライン各社のロゴやグッズ、デザイン面から掘り下げるチャプターは本当に楽しい。飛ぶことは墜落する事への抵抗と語るのは押井守氏。飛び続けることは出来ず、飛んでも墜落する。うまく墜落することを着陸とよんでいるにすぎないという同氏の話を読んでいると、ロケットの、火星にもいけるという未来の、「飛ぶ」イメージの変わりようにも興味が沸いてくる。過去から今現在までの「飛ぶ」ことを網羅している。そんな位置づけて読んでみると本当に面白い。これから先は、また別の話、と。

Art and Air 空と飛行機をめぐる、 芸術と科学の物語」
Art and Air展実行委員会、工藤健志(青森県立美術館)(著)
スペースシャワーネットワーク (2012/9/28)

写真と音楽と文章。目と耳と頭、と心で、飛ぶという行為に没頭する。

自伝的要素が強く、主人公スミスはケルアック自身、ジャフィーはビートの詩人ゲーリー・スナイダーがモデル。ケルアックもスナイダーもともに1950年代のビートニック(ビート族/言わばヒッピーのより文学的な前身)で、そのメッカはサンフランシスコ。ビートジェネレーションは「打ちひしがれた」という意味があり、第二次世界大戦後の拝金的な機械文明化と反動的な右翼化の波に叩きのめされ(beatされ)ながらも、そうした強圧的な環境に順応することを否定し、一種の原始主義に拠って自己の人間性を取り戻し、専ら詩や小説や音楽をメディアとして魂の声を響かせ、新しい精神革命を醸成仕様とした若者の世代である。無為(ドゥ・ナッシング):自然のままにまかせ作為するところのないこと。空無(ナッシング)と森羅万象(エヴリシング)。「願わくばこの眼前に広がる非人格的な物質のさ中に人格的な神のましまさんことを。」「銀河の中の無数の世界(ワールズ)、言葉(ワーズ)。憐れな、優しい現し身(うつしみ)よ」と、ぼくは実感を籠めてつぶやく。

「禅ヒッピー THE DHARMA BUMS」
ジャック・ケルアック著(小原広忠訳)
出版社:太陽社 (1975/10)

The Dharma Bumsの原題「達磨の放浪者」の全訳版。

どれもすっと読めて、うーっとストーリーの中に入って、さっと手を離されるというか。どれもおもしろいが、短編にありがちなあっさり感が否めず、何度も読んで始めてなるほどと思うのかも知れない。常に外国と接しているタイの、それもバンコクという都会と田舎の、なんとなく国際的に感じるのは、著者がシカゴ生まれだから?ただ、僕ら日本人にとっては、それはなんとも普通というか。だからすっと入れるかわりに、欧米の各紙で絶賛されるだけの価値と驚きは感じなかった。ガイジンの娘に恋をする少年に自分の経験から反対する母親、兄を通してみる大人の世界を回顧する「カフェ・ラブリーで」。一番おもしろいと思った「徴兵の日」は、徴兵が決まってからの、腹をくくって「さ、」というなんというか諦めと、だけど義務を果たそうとするいさぎのよさ。「観光」は失明間近の母親と、将来へと盲目になりかけている少年の「旅行」。老年の最後を、その意固地さとプライドのようなものを心の中でむしゃくしゃさせる「こんなところで死にたくない」。そして、最後の「闘鶏師」は、町の有力者という、北斗の拳の世界のような、そんなところで繰り広げられる家族の絆を。

「観光」
ラッタウット・ラープチャルーンサップ著(古屋美登里訳)
出版社: 早川書房 (2007/2/21)

タイを舞台にした短編7編。

個人主義とコミュニティ。アメリカが「バラバラ」の中で一つになろうとするとき、「自由」や「平等」「民主主義」という普遍性の高い理念に基づいているという点が特徴。ある意味、そこに向かって白か黒かを選別して世界をリードしようとしている。アメリカという国。その中にあるコミュニティ。ここでは、9つのコミュニティを取材している。【1】ブルダホフ(ニューヨーク州メープルリッジ):しなやかな原理主義という副タイトルが示すように、信仰によって結びついたコミュニティで、「欲」を排除し、生活するコミュニティ。「死刑そのものが新たな蛮行を増やすことに他なりません。【2】ダドリー・ストリート(マサチューセッツ州サウス・ボストン):コミュニティの再生力「個人の自由と権利を重視する余り、人間を社会関係から切り離し、善の問題を個人の選択にゆだねてしまっている。そのため、個人主義の過剰がもたらす病理的状況への有効な回答を用意していない」【3】ゲーテッド・コミュニティ(カリフォルニア州コト・デ・カザ):資本・恐怖・セキュリティ。囲む社会の利点と弊害。【4】ミドルタウン(インディアナ州マンシー):もっとも「典型的」なアメリカ、KKK(白人至上主義の秘密結社)の存在を欠かすことが出来ないかつてのマンシー。多くの企業が進出したマンシーは、ガラス製造や製鉄にかけてはインディアナ州屈指の存在になった。このミドルタウンには、物質主義や個人主義が浸透し、伝統的な価値観と対峙するようになった、そして、ゲマインシャフト(村落共同体)からゲゼルシャフト(利益社会)へとコミュニティが変容していったこと。→これが典型的?【5】ビッグスカイ・カントリー(モンタナ州ビッグ・ディンバー):連帯する農牧業【6】メガチャーチ(アリゾナ州サプライズ):草の根の宗教右派、宗教をエンターテインメント化した、キリストは資本主義者だったのか、などの批判。【7】セレブレーション(フロリダ州オーランド):ディズニーが創った町【8】アメリカン・サモア(南太平洋):海に浮かぶ、小さな「アメリカ」【9】刑務所の町(テキサス州ハンツビル):「アメリカにおける死の首都」、季節天候に左右されず、景気の影響も受けない「刑務所産業」という言葉があるほど。大学と刑務所の町と称されるハンツビルは、経済的効果のために犯罪者を? 

「アメリカン・コミュニティ ―国家と個人が交差する場所」
渡辺靖著
出版社: 新潮社 (2007/11)

アメリカという「多様性」の一片にしか過ぎないが。

台湾に行きたくなる。最後、台湾新幹線の車両違いで出会う登場人物たち。カートを押す女性にそって出てくる終わり方。吉田修一節の効いた、とてもライトでふわふわした物語。台湾というお国柄(スケジュール通りに行くと手を抜いているんじゃないかと思うことなど)も垣間見れて楽しい。企業が台湾に行く、女性ひとりでぶらりと台湾に行って恋をする。それがドラマチックに出会う。鬱があり、浮気があり、キャバ嬢との恋があり。そして、戦争時代の台湾の「友情」まで。新幹線が台湾で走るという一大事の背後にある、いや普通一般に起こる人間模様を描く。

「路(ルウ)」
吉田修一著
出版社: 文藝春秋

新幹線が台湾で走るという一大事の背後にある物語

(抄録)
コンステレーションです。もともとは、『星座』という意味らしいのですが。日本語だと『布置(ふち)』ともいいます・・・ばらばらに存在している星が、遠くから眺めると獅子や白鳥に見えますよね。それと同じように、偶然と思われる事柄も、離れて大きな視点から眺めると、何か大きな意味がある。そういった、巡り合わせのことを指すんです。『意味のある偶然』ですね。とにかく、、、、
「人は自分の抱えている苦痛を、もっと大きなもののせいにしたくて、悪魔に憑かれる」

「SOSの猿」
伊坂幸太郎著
出版社: 中公文庫

セイブ・アワ・シップスなのかトトトツーツーツートトトなのか。

抄録)※「わたしたちはどん底を知らない。どん底を知らずに生きていけるよう、すべてがお膳立てされている」 ※我らの世代は、お互いが慈しみ、支え合い、ハーモニーを奏でるのがオトナだと教えられて育ってきたから ※「さて、ここでQ:人間は一生どこかから落ちなければ、落ちるということを知らないまま死ねると思う・・・」 ※「でも自分の想像力の外に子供が出て行ってしまったら、親はどうすることができるんでしょう」 ※「恐ろしい。腹立たしい。そこにいろいろな感情はあると思います。 ※その感情は本物です。大切にしてください。 ※わたしたちの社会は、そうした感情を抑えこむようにできています。思いやりの言葉の下に押しつぶすようにできています。どこに書いてあるわけでもない、法律ですらない。そんな規律や『空気』にしばられ、みんな、それを抑え込んでいます。 ※人間は絶えず「自然」を抑え込んできた。
都市を築き、社会を築き、システムを築いた。 ※すべては自然という予測困難な要素の集合を、予測し統御する枠組みへと抑え込もうとする人間の意思の現れだ。 ※かつて人類には、わたしがわたしであるという思い込みが必要だった。

「ハーモニー」
伊藤計劃著
出版社: ハヤカワ文庫

「私」を喪失する「ハッピー」な世界、完全平和のハーモニー。

中村文則という国際的な評価の高い作家の作品の中で、これだけ分厚く、これだけ濃厚な作品が「旅本?」となる。が、そこが決定的な理由。教祖の講話には、科学的な要素がふんだんで、アフリカやアジアの貧しい世界での医療という、昨今、かなりの「問題」をあっさりと完璧なまでの設定にするなど、これは「辞書」に近い内容の重厚感があり。そして、それがすらすらと読めて、止めたくないほどのストーリー性の下に成り立っている。名作。

「教団X」
中村文則著
出版社: 集英社

ものすごいリアル、なのに完全なまでのフィクション

ダブル人気作家の著作でお送りする脳内トリップ満載のストーリー。ホテルから山奥まで場面がころころ変わって最後は小学校のグランドへ。時代もどんどん行き来して、なんとも奥深い設定の中で、ヒーローを中心に置く物語は、なんとも爽快なほど。分厚い本を抱えても、旅先で楽しめる作品。

「キャプテンサンダーボルト」
阿部和重・伊坂幸太郎著
出版社: 文藝春秋

ヒーローを追いながら、ヒーローになる旅路。

ザ・原田マハ作品の王道的一冊。パリが舞台でもない以上、この世界感は京都でしか出なかっただろうな、と思わせる。一つの突出した才能、そこにからみつく伝統やらしがらみ、そこを切り崩す「異邦人」。なんとも、せこく、窮屈で、それゆえに神秘的にも思える京都の芸術世界を、東京の、それも銀座の、なんとも夫婦仲やら家族の絆をからめて展開してくれるストーリーの中で、フィクションを超えてしまって、とても楽しく、それっぽく思えるから素晴らしい。どっぷり浸かれる時間が、魅力だ。

「異邦人」
原田マハ著
出版社: PHP

京都が舞台だから成り立つ世界感

棚作りの面白さで定評のある下北沢の本屋で見つけた一冊。今あるモノを、あるべきにモノに入れ替える空間設計や、流れをつくる変化で、読み手のこちらまで「ということは、あの倉庫は、こうしたらいいのか」と思わせてしまう一冊。ニューヨークをはじめとしたアメリカでのケーススタディに始まり、東京で実際に手がけた実例、そして地方都市、郊外、公共空間と、リノベーションして生き返る実例が面白いように並ぶ。読んでいて、ためになる一冊でもある。

「都市をリノベーション」
馬場正尊著
出版社: NTT出版

すでにある都市を使う、NYC、東京の足跡

「俺はまだ、神に愛されているだろうか? ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。著者渾身、文句なしの最高傑作!」 。そんな謳い文句通りの傑作。直木賞と本屋大賞のダブル受賞。一地方の音楽コンクールが、商業的な価値を持つこと、そしてコンクールに出る人達の商業価値。そんな「現実」をしっかり描きながら、音楽そのものを信じられない描写の連続で体感させてくれる。分厚い単行本を駅や空港で開いて、しばらく非日常の空間で、これを読めば旅の厚さも増す。

「蜜蜂と遠雷」
恩田陸著
出版社: 幻冬舎

コンクールの世界へ時間旅行する。読み始めたら最後まで・・・

入試倍率は東大の3倍、卒業後は行方不明多数、「芸術界の東大」の型破りな日常。そんなキャッチーな紹介文で始まるので、どんな内容かと思っていると、出てくるわ、出てくるわ。これを日常として読み進めていく内に、楽しい気分になる。音大と芸大。この2つの顔を持った世界へ埋没するだけで楽しい。才能と成果、結果と過程。色んな人の視点で描かれるドキュメンタリーは、何とも心地よく時間を経過させ、笑い、関心し、藝大という世界が好きになる。秋の藝大祭に行きたくなる。「美校と音校の敷地が繋がっているように、美術と音楽は繋がっている。藝大は個々の力も魅力的だが、その中で起きている化学反応も、とても魅力的だ」(引用)。

「最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常 」
二宮敦人著
出版社: 新潮社

東京藝大が異質に見えて普通にも思える一冊