2001年3月18日(日)
3日目

ナイロビ〜マサイ・マラ国立公園


昨日は雨音を聞きながら、マラリアを運ぶ何とか蚊に刺されないため、少し汗ばみはしたが毛布をかぶって午後8時半には、眠りこけていた。
そのせいもあって早朝6時半には起床。
早朝からお湯の出る洗面台で顔を洗う。部屋の窓からのオープンテラスを見ると昨日の雨が少し残っているのか地面がクロい。パッキングを済ませ、同じファーストフロア(2階)にある食堂で朝食を食べる。何人かのウェイターとウェイトレスが、スワヒリ語で楽しくおしゃべりしている。掃除をしている人も店員と同じぐらいの数いる。この小さなホテルで、何人雇っているのだろう。昨日のスーパーといい、一人一人が少しずつそれぞれの仕事をかなりの余裕をもってシェアしている。

朝食はコーヒーにパン、スクランブルエッグとデザートのブッフェ。並べられたフルーツは、蠅から守る為にサランラップがかぶせられている。完全防備のパイナップルとオレンジ色のメロンのようなもの。「んっ!?夕張メロンか?」なんて淡い期待を持ってそれを皿に盛ってテーブルに戻る。ナイフとフォークでお上品に食べてみると、何だろう?あれ。甘くもなく歯ごたえのしっかりあるフルーツだった。ジュクジュクにジューシーで甘いという想像からかけ離れたキュウリ的な感じ。期待大に反比例して残念な気分だ。

フルーツ以外はウェイターが運んできてくれる。
スクランブルエッグは黄色ではなく白色。銀色のプレートの上にのせられると、どうも「給食」を思い出してしまう。卵はどこへ行っても卵だから好きだ。塩をおもいきりかけて食べた。
朝食を終え、いよいよサファリに向けて出発する。少し天気が重いような気がする。

「しまった!」
今、ナイロビの国内線空港、ウィルソン空港でこれを書いている。何がしまった!かと言うと、まず一つ、僕のマサイ・マラ間での飛行機(エアーケニア)は、午前10時発で9時に空港に来れば良かったのに、一時間間違えて7:45にホテルをチェックアウトして、空港に着いたのは午前8時。しまった、ここで2時間つぶさないといけない。予想通り何もない、この小さな空港で、だ。そしてもう一つのしまった!事。早朝で飛行機に乗り遅れるまいとタクシーを利用したのだが、たまたまホテルの係員がこれから空港に行くならタクシーをピックアップしてやると言うので、そのままお願いすると、一人のドライバーがやってきて料金700シリング・・・。だいたいの相場は、国内線空港までなら市内から500シリング(800円)と聞いていたので、結局、320円程高く払ってしまった。なんか、ここにきての200シリングの差額は、ムカツクのだ。

空港の周辺には何もない。数十分の間隔をおいてプロペラ機が到着し、客を乗せるとすぐ飛び立っていく。雲が重くどんよりしている。ジェット機と違って、カラカラと走り出してフワリと浮かぶプロペラ機はラジコンのようだ。
待合室で、ぼんやりと日記をかきながら2時間を潰す。決して、悪くは無かった。静かだし、ベンチもあるし、ファンは回っているし。
・・・が、日本の団体さん登場で雰囲気はガラリと変わった。年輩の方ばかりのツアーで、ペチャペチャ話す団体様ご一行。ぼくは、そこに吸収されないよう、「日本語の分からない中国人です」くらいの勢いで距離を保っていた。どーしよう、僕のサファリがこの団体と一緒!なんてことになったら・・・。

まぁ、その時はその時でなんとしても違うところへ滑り込もうと呑気に構えて、とにかく晴れろー!と願った。荷物はすべて預ける。いくらバックパックでも、小さなプロペラ機の機内に持ち込むのは無理だと言われた。荷物を預ける時も、青い服を着た係員がとっても笑顔で気分がいい。まだナイロビにきて2日目だけど、ほんとよく笑うな、と感心する。朝からこの笑顔に触れるだけで、温かい気分になる。無機質で無色なニッポンの朝にはない雰囲気が、ここにはある。


今、マサイ・マラ国立公園内にあるKEEKOROCK LODGEにあるプールサイドに腰掛け(なんてブルジョワージィ〜なんだ俺は!)、この日記を書いている。

無視の泣き声が心地いい。他の音は何もない。完全なるリゾートロッジ。だからか?白人が中心のツーリストたちの楽園と化している。少しだけ裕福な雰囲気に包まれている。

1時間間違えて早くウィルソン空港に着きすぎたと思っていたが、どうも腕時計の合わせ方を間違っていたようだ。正確には香港から南アフリカに着き、そこで南アフリカ時間に合わせてから、そのままだった。なんと、ケニアと南アフリカの間には、1時間の時差がある。

ナイロビのホテルでは赤い目覚まし時計で時間感覚をとっており、その時計は日本を出発してからナイロビで初めて時間を合わせたので、日本とケニアの時差6時間であわせていたので問題はなく寝坊はしなかったが。ホテルを出た時点では、正確な時間を体の中で刻みながら、タクシーに乗った瞬間、腕時計をたよりに1時間早い時間で理解していた。こんな初歩的なミスで、「しまった!」みたいな、、、そんな気持ちで一杯になり、飛行機に乗り込んでいたのだ・・・。

そういえば、僕の飛行機のボーディングチケットは黄色で(色分けして、乗り込むときには係員がゲートのところでそれを掲げ呼びかける。黄色人〜、こっちですよ〜、みたいな。白組はこっちぃ〜、の感覚。こういうところも、僕は好きだ)10時発のはずなのに、腕時計時間で9時ちょっと過ぎに黄色のチケットを掲げ呼び出された。マライ・マラ行きかを聞くと、「そうだよジャンボ、ニコッ」っとと答えるので、1時間早いねんけどなぁ、と思いつつも乗り込んだんだった。
またまた思い出してきたぞ。ホテルからタクシーに乗ったとき、ドライバーがやけに空港までの道をぶっ飛ばし、「急がないともう一人、9時に空港まで送ることになっているんだ、おぉヤバイよ、ヤバイよ」と焦っており、後部座席で僕は、「まだ8時やん」なんて思っていたのだ。あの時点で、もうすでに9時に近かったと言うことになる。
そら、焦るわな。


さて、ナイロビとマサイ・マラを繋ぐプロペラ機は、パイロット1人と僕を会わせた乗客5人。座席は8席しかない。バスの運転手のごとく、操縦席の横のドアをバタンとしめると、パイロットは振り向いて35分でシアナスプリングにつきますから、と黒くデカイサングラスを光らせた。
そうやって簡単な説明を終えると、「さぁ、これ、どうぞ」と、あめ玉の入ったカゴを後ろに回す。服装は「キャプテン!」であるが故ビシッと決まってるが、やってることは・・・。なかなか忙しいもんだ。後ろのトランクに乗客5人分の荷物を積んで、操縦席にまわって「よっこいしょ」と座る。あめ玉のカゴを回してそれを回収すると、「さて、いくか」といわんばかりにシートベルトを締めた。・・・、こういうの、ありなんだな。


マサイ・マラ国立公園は非常に広い。泊まるロッジによっていくつかある滑走路のうち、一番近い所でおりる。僕の泊まるキーコロック・ロッジに近い滑走路が「シアナスプリング」で、どうも乗客5人ともそこらしい。

「さぁ、行こう」というパイロットの一言でブルブルと進み、小回りをきかせてUターンした僕らのプロペラ機は、そのまま一気にスピードを上げて浮かび上がった。

このウィルソン空港の周りはナイロビ国立公園なので、眼下には低い木々がまばらに生えた大地が広がる。手を伸ばせばコックピットというより「運転席」という感じの、そこまで届くほどの小ささで、席とコックピットを隔てる窓など、何もない。

小さな子供が乗っていて興味にまかせてその辺のボタンをポチッポチッと押してしまったら大変な事になるんじゃないかな。いやいや、それどころか、「おお、坊主、隣に座るか?」ってこともあり得る「緩さ」。

だからこそ、フロントガラスから離陸の瞬間を見るのは爽快だった。上昇を続ける途中、雲にはいってスパッと突き抜けるときの快感。昇ってるし、飛んでいる、という確かな感覚。
「いい!」

機体が安定するとパイロットは座席の下からノートを取りだし、それをぺらぺらめくりながら眺めている。「ちょ、ちょっと、運転手さん、前みてよ」……なんて思ってしまう。
(たま〜に、ピーピーピーとオレンジのランプが点灯したりすると、パイロットは慌ててその辺を点検し始める。不思議と、こんな感じでも大丈夫なのだ。これならオートマ限定のペーパードライバーでも操縦できるのではないかとさ思う)

眼下はずーっと、かわり映えのない大地が続く。ぼんやり眺めていると、ポツン、と茶色い一本道が見えた。「おおっ」と体勢を整えたパイロットが、その一本道に向かって大きく方向を転換させ、高度をドンドン下げていく。「いきま〜す」とアムロ的な気合いを放つと、パイロットは微調整をしながら機体を安定させ、その一本道に見事、着陸させた。この技、さすがだ。これでこそパオロット、リスペクト!だ。

典型的なパイロット専用大きめ真っ黒サングラスをしたこの男、Coolではないか。

到着すると、「ドアを開けるからちょっと待ってな」と、車のドアをあけるように左横のトビラをあけ、ぐるんと回りこんで僕ら乗客用のドアをあけてくれた。びよーんっと階段を地面まで伸ばし、後ろから僕らの荷物を取り出す。空港バスの運転手でさえ、ここまでやらないだろう、働きっぷり。ワンマン・飛行機は、なかなか忙しい様だった。

それにしても、「土」の滑走路におりるのは初めてだ。ランディングで巻き上げる砂けむりは尋常ではない。そのご減速する途中も、フラフラと不安定だった。

降り立ったそこは、思わず「わぁ〜」っと声が漏れるほどの、大平原。
アフリカに居る、ということを何より感じさせた。

「スズキ?」と声をかけてくれた男性に、「イェス」といって荷物を預ける。どうも僕のピックアップらしい。『1時間早いはずなのに、どうしてうまいタイミングでピックアップがきたのだろう、と、このときもまだ思っていた。・・・と、一緒のプロペラ機で来た5人がそのまま同じサファリワゴンに乗り込む。声をかけてくれた男性が、これから3日間サファリをするドライバーガイドだと挨拶した。だんだん理解してきたぞ〜。サファリって自分でいけません?と空港にあったツーリストオフィスで聞くと、車か飛行機で行って、向こうでのロッジの予約が必須と言われた。まぁ、まさかサファリにゲストハウスはないだろうことはわかっていたが、要予約の言葉には拒否反応が出る。たたみかけるように、「あなたには時間がないですね、飛行機の方がいいです」と言われた。まぁ、それはそうだろうとこちらも落ち着いて対応したが、最後に「ツアーで申し込んでガイドも手配しないとサファリは回れませんよ」というのには少々辟易。提示された値段に……、閉口。完全なる独占価格、コンペティターなしの横並び談合体質。まっ、そんなもんか。


サファリワゴンの中でブツブツと、そんな自分の現状を認識しながら、土の滑走路を見ていた。僕らの乗ってきたプロペラ機は、ナイロビに戻る乗客を乗せてUターンをすると、砂けむりを巻き上げながら飛び立っていった。

その音が雲に吸い込まれ、見えなくなると急激に静かになった。太陽がシャラシャラと降り注ぐだけ。鳥がたくさん飛んでいた。髪の毛が焼けたような匂い=強烈な陽射し。低い木の下で、マサイ族が休憩しているではないか・・・。それほどの暑さ。

サファリワゴンの中で、ドライバーガイドが名前を言って一人ひとりと握手をする。
同乗者は、コロラドから来たアメリカ人老夫婦とイギリス人女性2人組。それぞれアンボセリとセレンゲティで、すでにサファリを経験している。最後はやっぱり「べた」にマサイでしょ、的な雰囲気があって、挑む姿勢にも「慣れ」がある。ぽか〜んと口を開けながらキョロキョロしている東洋人に、彼らはどんな第一印象をもったのだろうか。サファリ初体験は、つまり僕だけだった。

たまに、飛行機はどうして迷わず目的地に着けるのだろう?と不思議に思い、それは方角を完全信用して進むからだろうと納得する。技術っておっそろしいスピードで進化してるからな。「大空」っていったって、交通渋滞なんだろうと思ったりもする。

が、このサファリドライバーは、シアナスプリングの滑走路からロッジまで、1時間以上にも及ぶくねくねガタゴト道を進み、右折左折を何度も繰り返しながら、な〜んにもないサファリを突っ走る。そして、ロッジに到着させた。
地図なんてモノもないだろうし・・・、方角をかぎ分けてるのかとさえ思う。なぜか、サンコンさんの視力が8.0なんて驚異が思い出されて、なるほどあり得ると頷く。
ほんとにすごいな、これは慣れなのか?身に染みついてるってやつ?

広大で、平原で、視野が非常に広い。滑走路からロッジに向かう途中、マサイ族の村が点在していた。家畜の牛を散歩させるマサイの戦士達にすれ違う。黒い肌にあの赤い布の民族衣装は非常に映える。村落は土の壁で造った簡単な家が円を描くように建ち並ぶ。そのそばには布を干していたり、木陰で休んでいたり、なぜが黙々と歩いていたり。マサイの生活が感じられる。決まって、手を挙げ笑顔を僕らの車に投げかけてくれる。それにしても、緑と茶色の広大な大地に、真っ青な空のコントラストが美しく、そこに足が長く、頭の小さい9等身くらいのスタイル抜群な、そして黒い肌に赤い布をまとったマサイの戦士が、ただそこに立っているだけで様になる。

色彩的コントラストのバランスが非常にいい。

マサイの戦士は僕の目には格好良く映った。そのマサイの村々をいくつも超えて、ようやくマサイ・マラ国立公園内に入る。入る前にドライバーが、窓際に座っていたアメリカ人老夫婦の夫の方に窓を閉めるように告げた。そのすぐ後で民芸品の土産物を手にぶら下げたマサイが窓をたたき破るくらいの勢いで売りに来た。これを防ぐためだったのか。窓が開いていれば大変な事になっていたに違いない。ペルーのマチュピチュ遺跡ではグッド・バイ・ボーイっていうのがいて、崖を駆け下りてきて、汗だくのその少年をバスの中にわざわざ招き入れチップをもらっていたのに。結局はバス会社もいくらかもらっているのだろうけど。でもここでは100%シャットアウトの姿勢。

マサイ・マラ国立公園に入ると、ガゼルとシマウマが迎えてくれた。
そのまましばらく進むと、5頭のキリンの群がいる。ロッジにただ向かうだけでこんなに見れるとは、こりゃ4回のゲームドライブでどれほどの動物と出会えるのか、期待値が高まる。

キーコロック・ロッジに着くと、ウェルカムドリンクとおしぼりが出てチェックインをする。
いきなり“Welcome, Mr.Suzuki”と呼んでくれたことにうれしさが芽生える。ロッジの敷地内にはプールがいくつかあって、それぞれのロッジが「離れ」のように点在している。
天気もすごい良いので、そんなこともあって環境は最高だった。僕のロッジはナンバー23。バッグを運んでくれたポーターに20シリングを払う。狭くて虫もいるにはいるが、部屋自体には満足だ。きちんとベットメイクもされているので、泊まり心地はよさそうだった。ちゃんと蚊帳もついてるし。

12時半からランチが始まると聞いていたので、バッグから出した赤い目覚まし時計を見ると、もう12時半!。あれっ???もう一度腕時計を見ると、11時半……。
っと、ここでようやく1時間間違えていた事に気づいた。

ったく、僕の腕時計にはワールドタイムなんて機能がついていてついつい時差を勘違いしてJRS(エルサレム)であわしていたではないか。ナイロビは標準時から+3時間で、日本は+9時間。だから僕の腕時計の中ならJED(ジッダ・クェート)であわさなければいけなかったのだ。不覚。

このロッジはフルペンなので朝・昼・夕食つき。まぁ、近所に食堂やら洒落たレストランなんてないので当たり前だが。フラフラ近所を歩き回ろうものなら、こっちが動物の食事になってしまう。そう、ここは大自然なのだ。リゾートでもなんでもいいから、ここまで「囲まれ」ていないと危険だ。

まずは、昼食へとロッジ内のレストランへ行く。バイキング形式で味も量も大満足。飲み物はウェイターにオーダーする。フルーツパンチをゴクゴク飲み干した。ジャンボ!と満面の笑顔でウェイター達が挨拶してくる。スズキという名前なので、みんな「スズキ、スズキ」とニコニコして言い寄ってくる。近づいたひとの大半が、ハンドルを握るポーズをとる。「サムライ!」、と。
それにしてもスズキという会社は日本より外国受けのいい会社なのだろう。日本であまりスズキの車に乗っている人を見ないからなぁ。あっ、軽自動車は強いか。というより、僕は車に関して無知なのだった。

昼食後はプールサイドで1時間弱体を焼いた後、部屋に戻って日記の続きを書いた。
どうも停電なのか電気がさっきプチッと音を立てて切れて以来、なかなか復旧しない。午後4時からゲームサファリなので、それまでロッジ内でもウロウロする。ウロウロついでに待ち合わせ場所のダイニングカフェへ行き、ただのケニアコーヒーを飲んでいると、僕のサファリガイドが話しかけてきた。

「停電、今?」と聞くとこの時間帯はいつも電気をとめ、エネルギーの補給をしているそうだ。その後5時くらいに復活するという。ダイニングカフェも薄暗かった。考えてみればこんな大自然の中にあるのだ、電気があるだけでも不思議に思う。カウンターでペットボトルの水を150シリング(240円)もするがロッジ内にあるのだから仕方なく、それを買う。そもそも水はここでしか買えない、独占販売状態にある。そのカウンターの男性とも話す。なぜかカメラの話題になり、僕の小さい方の「イクシー」をみせると、「どうして日本人は何でもかんでも小さくするんだ?」と根本的な質問をされる。今まで色んな国を訪れたが確かにSmall is Bestは日本人だけらしい。パナソニックのCMで世界最小と宣伝文句にしているが、そもそもそんな競争に多くの国は乗り出していないのだ。

日本人である僕は、小さい方がいいに越したことはないと思っており、携帯電話でe-mailやインターネットができるし、MDなんてモノが日本では定着してることを教えてあげる。と、その男性は「だから日本人は、みんな小さいんだ。」・・・って。
おいおい。

それから日本人のホリデーがとても短いことにも触れた。みんな駆け足でやってきて駆け足で去っていくのはなぜだ?一日どのくらい働くんだ?と日本人のコアな性質をついてくる。最近は不思議にも思わないし、これだけ働くから裕福なんだよ、と心の中で呟いた。

そうこう話しているうちに、さっきのアメリカ人老夫婦がテーブルに座ってコーヒーを飲んでおり、僕に向かって「ここに座りなよ」と手招いてくれた。が、「僕、スモーカーだから」というと、日本人だねぇ〜、くらいの顔で首を左右に振る。

彼らは、コロラドからロンドンを経由してナイロビ入りしている。少し離れた席から会話をしている中でそんな事が分かった。話しているとガイドがまたやってきて、僕の横に座りタバコを吸い始めた。席が近い分ガイドと話し出す。彼に「日本に来たことある?」と聞くと、フライトが長すぎてタバコが我慢できないよ、と苦笑いをする。ご名答だ。考えてみれば、僕はほとんど飛行時間、寝ているからかタバコが吸えなくて苦しい思いは機内食の後ぐらいだ。そんな風に思い出したのも、ここ最近だけど・・・。

午後4時になり、一緒にこのロッジまで来たイギリス女性二人組は別のサファリカーになったらしく、これからのサファリは、アメリカ人老夫婦と僕の3人になった。サンルーフは3つに区切られているので一人一つづつ自由に使える。多くのサファリカーは7〜8人乗っているので、もしあんなのに乗っていたら右側に居る間に左側で絶景がみえたりしたら悔やむことになるだろうなぁ。三人は非常にラッキーだ。ただドライバーへのチップは3人で割るので、高くつくが・・・、一日だいたいUS15〜20$が相場らしく、それの三割で日数分だ。まっ、これからのガイディング次第で額は決めよう。気持ちの問題だからね、気持ちの。

午後4時になっても、暑さが残っていた。


いよいよアフリカの大地へ。
まずモンキーの群、そしてアフリカ象の群が立て続けに現れ、普通にこのサバンナで生活している動物たちを、おじゃまをするように覗き見る。見渡す限りの大平原。木々は低く少なく、大地は砂地と低い草の絨毯を敷いたような草原が半々くらいの割合で広がる。車はいくつかのサファリカーとすれ違いながら進む。

突如、ライオンが現れた。

一頭のバッファローが倒れており、そこへライオンがノソノソと寄ってきた。そのバッファローを少し嗅いで、そのまま歩き去ってしまった。新鮮じゃなかったのか?車からライオンまでの距離は3mもなかった。

またライオンだ。こんどのは若い。ライオンの一歩一歩が聞こえる。草を踏む、そして恐怖を一瞬感じさせる音。近づき、遠のいていく。カメラのレンズ越しにその雄大な姿を見るより、やはりこの目で見たかった。

しばらくじーっと眺める。シャープな体つきは野生であることと同時に狩人の鋭さがある。比べるのも嫌だが、動物園のライオンからは感じられない、「当たり前」の姿。

その後も2頭のライオンを見る。小川に首を傾け、かなり長い間水を飲むライオン。ハッと気づくと周りには何台ものサファリカーがとまっており、みんなこぞってサンルーフから上半身を乗り出しては、カメラを構えている。そんな光景を見ると少しさめるが、アフリカの生と死の神秘的な光景は十分に目から肌から感じることができた。

広大な大草原をバックにのそりのそり歩くライオンは百獣の王だ。
その後も一本の木に禿鷲の群がとまっており、何かの拍子にパーッと一斉に飛び立ったり、ワニの尻尾だけだが見えたり、本当にたくさんの動物がいる。一見しただけでは、その広さのあまり、そして隔てるモノがない平地であるので視界が広いあまり、雄大で平和な光景だが、その中では居きるか死ぬかのサイクルの中で、弱肉強食の世界が繰り広げられているのだ。
二時間半のゲームドライブの締めくくは三頭のゾウだった。母親ゾウが鼻を器用につかって草をむしって食べる。そのブチッという草を引きちぎる音が聞こえる。ある程度食べると母ゾウは僕らの車の前を横切って行く。横にいた子ゾウは、その後ろを体の割に大きすぎる耳をバタバタさせ後ろを追う。微笑ましかった。それにしてもゾウはでかい。こんな当たり前の事に改めて衝撃的に気づかせてくれるのがアフリカのもつ「本物」のパワーなのだろう。

鼻が長いということで有名なゾウだが、耳も実は重要で、体熱の調節は耳をバタバタさすことで調節している。だから子ゾウの耳もあんなにアンバランスに大きい。

明日のゲームドライブは早朝6時半から。ロッジに戻るとN.P.(National Reserve)の係員が来ていた。このマサイ・マラ国立公園のパーミッション・フィー、2日分US$54(1日にUS$27)を払う。話が終わると、「ジャンボ!フレンド」とさっきのカウンターの男性が挨拶をしてきた。

「日本人はなんでも小さくするから体も小さいんだ」と言った彼である。部屋に戻りシャワーを浴びる。相変わらず熱湯がでる。体全体が真っ赤になるほど焼けているので、シャワーが痛い。サファリに行っている間、ベットメイクされた部屋は、降ろされた蚊帳でいっぱいいっぱいになって、狭く感じる。あ、でも、蚊帳の中で眠るのって、初めてだ。

蚊帳の中に潜り込んで本を読み、日記を書く。

さっきのレストランに夕食へいく。なにやらギターをひいて歌っている人がいる。そして楽しげに盛り上がっている老白人がいる。こうゆう中での一人の夕食は、一人きりだという事をあからさまに感じさせる。一人旅が好きで、ずっと一人で世界中を旅しているが、唯一食事だけが寂しい。

ブッフェスタイルのメニューは豊富で、ブリトーににたモノとポークチョップ、パラパラのライスをとり、ビールを頼んだ。味も良い。あまりにも環境が整いすぎていて、つい食べ過ぎたり飲み過ぎたりするが、ここはサファリ。万が一病気になったら「病院」までどうやっていくのやら。119を回したところでやって来てはくれない。それに、身体もまだ順応しきれていないだろう。
「食べ過ぎに注意だ」と自分に言い聞かせた。

同じサファリカーのアメリカ人老夫婦が僕の前の席に座ったので挨拶をする。なぜか、僕はランチの時と同じ席に案内され、そこにはランチの時にはなかった灰皿が置いてあった。考えすぎかもしれないが、僕がスモーカーだということを覚えてくれたウェイターかウェイトレスがさりげなく置いてくれたんだろうか。そのくらいの気配りもあり得るほど、親切さに満ちているのだこのロッジは。

「スズキ、スズキ!」と話しかけてくるウェイターが一人いる。
料理もプリンのデザートも満足に食すと一人のウェイトレスがビルを持ってきた。そこにはビール代200シリング(320円)とランチの時のフルーツパンチ代140シリング(230円)が書かれている。そうか、ドリンクはお金がいるのかぁ。250シリングをトレイに置いて席を立った。
10シリングのチップ。少なすぎるか?

さぁ、明日は早朝5時おきなので、まだ9時だが、眠ることにする。
なんか、疲れてるな、やっぱり。



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