今回の展覧会は、16世紀のネーデルラント。その時代における絵画の潮流を追いつつ、最後には別格のバベルの塔へと繋がる構成。まずは彫刻から始まる。硬いオーク材を、よくもこの布のヒダ感をだせるのもだと感動しつつ、ほぼ作者不詳。そのまま絵画へ移り、「キリストの頭部」(ディーリク・バウツ)の目力、「ユダヤ人の供犠」の色の綺麗さに感嘆。赤くないリンゴを抱えた「リンゴを持つ聖母子」、一際目を惹く「女性の肖像」などを見ながら、だんだん、この時代の背景を理解していく。宗教画を越えて、新たな画題へとうつる中で、今の時代でもUKロックのおしゃれヘア?を感じさせる「フォンセカ家の若い男の肖像」が印象的だった。そしていよいよ奇想の画家、ヒエロイムス・ボスの世界へ。下にもフライヤーからとった写真を載せたが、「放浪者(行商人)」は、背景の奇妙さ、放浪者の目、そしてぼろぼろのズボン。今回の展覧会の特徴でもあるが、ひとつの絵を拡大して数枚のパネルで丁寧に説明してくれる。そしてもう一枚、旅人の守り神「聖クリストフォロス」。この二枚で、ボスの絵を理解したと思い込んでガツンとやられる。それは彼の工房で働いた者達の「ボス後(ボスのように描く)」という模作をみたから。真っ黒い人が印象的な「東方三博士の礼拝」、ボスをモチーフにした「樹木人間」、象が戦車になったかのような「象の包囲」、貝の中の奇妙な世界「ムール貝」。そんな中で「聖クリストフォロスの誘惑」は好きな一枚。エスカレーターで上がって、いよいよブリューゲル。版画の原画描く人だったブリューゲルは、人気の絵描き。「聖アントニウスの誘惑」を見て、一気に好きになる。そこからは、ボスに傾倒したような奇妙な世界を描く。有名な「大きな魚は小さな魚を食う」は、空飛ぶ魚などはもちろん、魚のマトリョーシカの構図が面白い。有名な「最後の審判」もブリューゲルにかかると非常に奇妙。人、が一人もいない。どこか森の妖精でもあるから不思議だ。しばらく、色のない版画がずっと続き、それもとても奇妙な世界の連続。ようやく終わり、部屋を変える時に、鑑賞していた女子高生三人組が「はぁ、つかれた、色が見たい、色が」。農家で生まれたブリューゲル、農民画家と言われた彼が描く「普通」の暮らしも素晴らしい。色んな物が、混在している。その混在を見事に体現したのが、「バベルの塔」だ。マクロとミクロの視点。一つの言語を話していた人類が天まで届く塔を建てる。それを神が知ってバラル(バラバラにする)。そんなバベルの塔。数々描かれたこの想像上の塔も、ブリューゲルのこれは別格。イタリアのコロッセオに感化されたのか、重厚で、どっしりした造りかけの塔、雲を越える壮大な構図、そのマクロの視点の中に、細部までこだわったミクロ。「バベルの塔」の横では、3DCGの7分半のビデオがある。これは実に面白い。光の加減、ガラスの入った教会の存在、レンガを積み上げた場所の赤色、白く粉をかぶった人。2、3ミリの人々には動きがある。このビデオと同時に東京藝大COI拠点の拡大複製は、この「バベルの塔」の世界を広げてくれる。これだけの最新技術で分解された「絵」は、それでも本物が圧倒するから驚く。それほど大きくない59.9×74.6pの絵が、圧倒するから素晴らしい。神々しい。1568年から450年ほどの時を経て、届くこの力は、まるで星かとも思う。
ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル
バベルの塔 展
16世紀ネーデルラントの至宝−ボスを超えて−
東京都美術館(上野)
2017年6月8日(木)