現在もスペインからの独立をにおわせるカタルーニャ。
その州都、バルセロナは、昔から、食、スポーツ、文化・芸術が独自で発達し、
観光資源に事欠かない国際都市である。
海があり、山がある。
1850年代から1930年代後半の約80年間が、
カタルーニャ芸術の最成熟期と言われ、
ガウディ、ピカソ、ミロ、ダリ、カザス、ルシニョル・・・と、
カフェ「クアトロ ガッツ」に集まったアーティスト達は、
ここで世界的な活躍の足掛かりを得た。

この展覧会では、
絵画、ドローイング、彫刻、家具、宝飾品など約130点が展示され、
構成は
〈T. 都市の拡張とバルセロナ万博〉
〈U. コスモポリスの光と影〉
〈V. パリへの憧憬とムダルニズマ〉
〈W. 「四匹の猫」〉
〈X. ノウサンティズマ―地中海へのまなざし〉
〈Y. 前衛美術の勃興、そして内戦へ〉となっている。

さて、まずはモデスト・ウルジェイの「共同墓地のある風景」。ワイドなカンヴァスに夕日(だと思う)が綺麗な一枚に心がすーっと持っていかれる。そして、フランセスク・マスリエラの「1882年の冬」を凝視する。なんともふわふわした手元と、目力に見入ってしまう。G.L.ルイスの「1888年バルセロナ万博のポスター」は、芸術性の高さを感じさせ(今、あっても十分に格好いい)、1880年代のバルセロナにあった日本というのも興味深い。光と影をテーマに構成された部屋では、ガウディの作品に心を奪われる。特に、「カザ・バッリョーの組椅子」と「カザ・バッリョーの扉」は素晴らしい。曲線美と木材の軟らかさが絶妙だ。そんな柔らかい気持のまま、目の覚めるようなステンドグラスに出くわすからたまらない。ジュアキム・ミールの「幼少期のマリア」という作品は、中央のマリアの絶妙な光、そして作品下部の複雑な色合い。良質なステンドグラスは、見る者を惹きつける。

ルマー・リベラの「夜会のあとで」「休息」には、絵画の正当な力を感じる一方で、休息中の気持ちよさそうに眠る少女に目が行く。ラモン・カザスはさすがだ。柔らかい色使いの「入浴前」、猿の手を引くボリューミーな衣装の「アニス・デル・モノ」、「女性運転手」と堪能できる。一瞬、写真かと思わせるような(特に遠くから見ると)、「サンタ・マリア・ダル・マール教会を出発する聖体祭の行列」は、言葉を失ってじっと見てしまう。アラグザンドラ・ダ・リケー「アンティグア・カザ・フランク」、臨場感と独特の色使いの、リカル・ウピス「アナーキストの集会」など、このブロックも、見所は多い。

パリという街との比較に入るブロックでは、サンティアゴ・ルシニョルの作品が目立つ。特に、ここ東京ステーションギャラリーのレンガ壁面に飾るという特徴柄、「自転車乗りラモン・カザス」はここに飾るために描かれたのではないかと思うほどだ。パリからスペインに戻り、海沿いの町で描いた「青い中庭」は光の加減だけでそこが海沿いであることが分かる。ここでもラモン・カザスの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの室内」で光の加減を上手く描いている。「喜びは過ぎ去りて」の公演ポスターでは、ルシニョルのきっぱり描く特徴が出ているし、ジュアン・リモーナは「読書」で小さな本を静かに読む女を描ききっている。

【四匹の猫】、クワトロ・ガッツでまとめられた部屋では、色をいくつも重ねたポスター(特にオレンジが光る)ラモン・カザスの「影絵芝居のポスター」「「四匹の猫」の人形劇」、さらにはジュリ・ピ・イ・ウリベリャの「人形劇の人形」がおもしろい。ちなみに、ラモン・ガザスは「川上音二郎の肖像」で東洋人も描いている。イジドラ・ヌネイは「ジプシー女の横顔」でインパクトある赤と黒の世界を、さらには「寄りかかるジプシー女」も素晴らしい。そして、ここでこの展覧会でも三本の指に入る、私の好きな作品に出くわす。縦長の非常に大きな作品で、黄色が鮮やかなエルマン・アングラダ・カラマザの「夜の女」。これは、作品の前でしばらくぼーっとしてしまった。ジュアキム・スニェーの「ルピック通りの市場」は活気がある。

もちろん、ピカソの作品も多い。ただ、バルセロナのピカソなので、パリに出てから、いわゆるピカソらしいピカソになる前。簡単にいえば「上手に描くピカソ」の作品たちだ。なかでも「デカダン」や(特にこれは名作)「エル・グレコ風の肖像」が好きだ。パブロ・ガルガーリョ「ピカソの頭部」は、見れば見るほど癖になるコミカルな彫刻で、ジャビエ・ヌゲース、フランセスク・ケーの「レストラン「カン・クリャレタス」のタイル壁画〈サルダーナ〉」はパチッと目を惹く色鮮やかな作品。フランセスク・ダシス・ガリ「パウ・カザルスのオーケストラ」はとにかく美しい。

最後は、ミロ、ダリ、コルビュジエ。やっぱり、ミロは好きだ。色んな作品があったが、特に「花と蝶」は、じーっと見れば見るほど、色使い、線、形のどれものが楽しく、発見が多い。結果、作品として整形された「普通」の物になるのだが、その完成度が凄まじい。サルバドール・ダリ「ヴィーナスと水兵(サルバット=パパサイットへのオマージュ)」は、これまで見たダリの作品の中で一番好きなかもしれない。ル・コルビュジエの「無題(バルセロナ陥落)」の2枚ある内の一枚、構図と線の美しさに驚いた。展覧会の最後に、パブロ・ピカソ「黄色い背景の女」を見ながら、これが描かれた1937年、今から83年前のアートシーンを想像しながら。その自由とセンスと完璧さの上に、、、出口を出た。























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Barcelona: The City of Artistic Miracles
奇蹟の芸術都市 バルセロナ
@東京ステーションギャラリー
2020年2月22日(土)