CHEAP THRILLS
Janis Joplin, Big Brother And The Holding Company
(1968年発売)

Combination of The Two
I Need A Man To Love
SUMMER TIME
Piece Of My Heart
Turtle Blues
Oh, Sweet Mary
Ball And Chain



堅く絞り出す声の窮屈感とそこにしか存在しない強さ。
サマー〜、タイム、タイム、タイム。

ジャニス・ジョプリンの歌声は、始めて聞いたときから離れない。それがいつのことだったか忘れたが、「SUMMER TIME」だけはずっと好きだった。バックパックを背負って旅する途中、バンコクのカオサンで泊まった宿にCDプレーヤーがおいてあり、シャワーもトイレも、ミニバーも、何ならベットさえまともじゃないのに、なんでCDプレーヤーがあるのかと不思議にさえ思いつつ、眺めるうちに音楽が聴きたくなった。何日かして、たまたまこの「CHEAP THIRILLS」を見つけ、なんとも典型的なアメリカン・カートゥンなジャケットに引かれて買った。早速、宿に戻ってデッキの中に入れると、うんともすんとも言わない。…「っおい!」と、バンバン叩いたが、無音。それから一ヶ月、日本に帰るまで音が聞けないまま、パンパンのパックを整理するたびに、捨てようかどうしようかと迷いながらも持って帰ってきた。

そうやって、ようやく聞いたあの時が衝撃的だった。
まさしくヒッピーだ!と、僕は今でも聴く度に旅に出たくなる。

彼女は、ドラックと酒に溺れ、命をたったシンガー。
乾いた空気と太陽の下で、西海岸のフリスコで、絞り出すようにブルースを唄い、暴れるようにしてロックを叫んだ。

No, no, no, no don't you cry...... Don't you cry と。

歌うことがエンターテイメントになり、魅せものの時代のぼくには、彼女の声は、唄い叫ぶひとつひとつは、いつも凄まじく感じられる。

亀の甲羅に隠れて生きている『タートル・ブルース』も、愛すことができる人を心から求めてしまう『I Need Man To Love』も、鎖の足かせを引きずってそれを探し求める『Ball And Chain』の毎日。ピース・オブ・マイ・ハート、私のハートのかけらを、ほんの小さなかけらを、Come on, and Take it........

生きることを唄い、怒濤のように溺れ、叫ぶだけ叫んで、泣くだけないて、死んでいった彼女。このアルバムを聴ききながら、ゴツゴツしたベッドに寝転がって、バックパックひとつで「生きる厳しさ」を疑似体験していたひとり旅の情景が、彼女の歌声とマッチするから、また旅に出たくなるし、平穏無事にぬくぬくしているのを拒否するし、このアルバムが好きなんだろうな、と思う。



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