cozy
山下達郎 (1998年発売)

氷のマニキュア
ヘロン
Fragile
Donuts Song
月の光
群青の炎
Boomerang Baby
夏のcollage
Lai-La
Stand In The Light
セールスマンズ・ロンリネス
Southbound #9
Dreaming Girl
いつか晴れた日に
Magic Touch

日本におけるア・カペラの第一人者と言われだけあって、声の「伸び」が心地よい。音を奏でるという作業と同時に、声を操る。そんなマジックが、彼の歌の全てを覆っている。「ヘロン」のサビを聞いていると、なんとも爽やかで、心地よく、思い切り気持ちがいい。

山下達郎といえば、クリスマス・イブでしょ、というほどに、僕は彼をリアルタイムでは知らない。ただ、「雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう」というフレーズが、新幹線のホームで別れる二人をバックに流れていても、特に「いい」ともなんとも思わなかった。僕が10歳の時だ。76年の「サーカス・タウン」のソロ・デビューアルバムから、数年をおいて発表するアルバムは、次々にヒットをしていたらしいが、お茶の間に浸透する類のものではなく、通を感じさせる楽曲だったようで。僕の記憶にも、ない。世の中はバブルに乗ってミリオンセール続発の時代、95年にベストアルバム「TREASURES」を出しただけで、主立った活動もなく。ただ、僕はこのアルバムでやられた。なんて声だ!と感動したのをはっきり覚えている。っで、ビールのコマーシャルで「ヘロン」を聴いた時、ものすごい「ショック」をうけた記憶がある。ショッキングな声。

98年発売のこのアルバム「cozy」は、ヘロンが入っていたことと、ドラマの主題歌で特に「いい」と感じた「いつか晴れた日に」が収録されていたので購入。当時、就職活動やらなんやらでサクサクしていた僕を、なんとも爽快にしてくれたアルバムだ。

1曲目、「氷のマニキュア」のイントロ、ギターサウンドが美しい。最盛期の山下達郎の声ではないというのは耳にタコができるほど聞いたが、このかすれ気味の裏声がいい塩梅。で、「ヘロン」だ。ヘロンという鳥が飛び立っていくサビは、何回も言うが爽快だ。

「飛び立てヘロン
金色の空へ
ゆるやかに舞い踊れ
風を追いながら」

始まりは、どこか俯いた様子……

「どんなにさみしい夜も やさしい声が聞こえる
にじんだ瞳の中で 小さな未来が生まれる」

そこから上を向き、そして飛び立つイメージ。
鳴かないでヘロン。太陽のリボン。飛び立てヘロン。沸き立てイオン。
伸びやかな声を助長する、キレイな歌詞が並ぶ。


大好きなドーナツを、大好きな人と一緒に食べる。
そんな「ドーナツ・ソング」も好きだな。ミスドのCMソング。


ファルセットの歌声がくせになる「群青の炎」。加山雄三をカヴァーした「BOOMERANG BABY」と続き、トヨタのCMソングだった「夏のコラージュ」。最も山下達郎らしい曲の一つだと。

LAI-LA。この曲は一呼吸置いて、ゆっくり聞ける一曲。94年の曲。タイアップが多いこのアルバムの中でも、古い楽曲の一つ。メリサ・マンチェスターとのデュエット曲、STAND IN THE LIGHTへと繋がる何秒かのポーズが、ジリジリとして絶妙。

「この街はどうして
心を弄び
切なさや脆さは
甘えにしか見えない
夏のさみしさ」

暑い夏の日。涼しいだけのハンバーガー・ショップでひとりのセールスマン。冷めたコーヒーを前に……ロンリネス。

こんどは日産のCM曲、「サウスバウンド#9」。このアルバム中の多くをしめるザ・山下達郎ソングの中でも、好きな一曲かな。

「Dreaming Girl」は文句なしの名曲。ヘロンといい勝負だ。
雨上がりの中を、笑いながら、生き生きとした、、、そんな夢見る少女。彼女の眩しさが好きだよ、という「僕」の視点から唄う。

「雨は斜めの点線 ぼくたちの未来を切り取っていた」
静かに、重厚に、そして太く始まるこの「いつか晴れた日に」という歌は、何度聞いてもいい。作詞は山下達郎ではないが、この言葉を彼が歌うからいい、というのは完全に言える。

ラスト・トラックは「MAGIC TOUCH」。

「We've Got The Magic A Pinpoint Of Magic
僕の小さな宇宙が回る」

広い世界の中のちっぽけなぼくらの愛。繋がっている不思議な力。
マジック、、、と歌いあげる。


例えば、2時間の映画を見たあとで、明かりが灯ってもまだその世界から上手く抜け出せないように、どうもこのアルバムをじっくり聞いた後で、急にカップラーメンでも食べようかとソファを立っても、上手く抜け出せない世界観が、このアルバムにはあって、それが何かということを的確には言えない歯がゆさがある。う〜ん、これはきっと、山下達郎マジックなんだと。それを認めざるを得ない節がある。


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