若くしてこの世を去った画家エゴン・シーレ。
彼の壮絶な人生を、年代を追いながら回顧する大規模な企画展だ。

まずは、自画像にも表れる『自分』という存在との対峙。
そして、宗教、芸術へのストイックな姿勢。

16歳でウィーンのアカデミアに飛び級でやって来ると
そこでクリムトと出会う。クリムトはシーレを、そしてクリムトはシーレを。
お互いに、その芸術性を認め合う。
クリムトが黄金時代と言われる金色を多用した時期
シーレは銀色を多用する作品を残す。
そんな作品、「装飾的な背景の前に置かれた様式化された花」と「菊」の2枚は
横並びに見られて圧巻だった。印象深い。

まず、若きシーレが描いた「イタリアの農夫」という小さな作品に目を奪われる。
人を描くという正確性に驚く。
それは線が最適であり、目の表情が見事という点。
そして、「レオポルト・ツィハチェックの肖像」で深い色味の片鱗が出てくる。

この展覧会の面白いところは
その時のシーレと関わりのあった画家達の作品も豊富に展示してくれることだ。
若きシーレに影響を与えたコロマン・モーザーとグスタフ・クリムト。
そしてカール・モルの作品たち。
ウィーン分離派を結成し、芸術を追究する彼らの作品は
当時のウィーンの熱さを感じる。
分離派展のポスターも数多く展示されていたが
どれもシンプルで色と線が少なく、なんともデザインが洗練されている。
クリムトの「横向きの老人の肖像」やカール・モルの「自転車に乗る人のいる郊外の風景」
などが印象深い。

また風景画も興味深い。エゴン・シーレの作品も
風景がのみ撮影が可能だった。
故郷「クルマウの家並み」「丘の前の家と壁」「モルダウ河畔のクルマウ」
「クルマウのクロイツベルク山麓の家々」「荷造り部屋」。
風景を描く際に使う色ではない色で、その街の雰囲気を(どれもが少し重い)
醸し出している。
他には、クリムトの「シェーンブルン庭園風景」は、こんなにも優しい
色使いで描くのかと驚いたし、コロマン・モーザーの「レザン」は
斬新な色使いで、見事にモノトーンの世界観をカラフルに描いている。
リヒャルト・ゲルストルの「背景に家のある木」は
小さなキャンバスに広がりのある風景を見事に切り取っていた。

今回の最大の見所、エゴン・シーレのアイデンティティーの探求と女性像と
名付けられた章の16点は圧巻だった。

この展覧会のキービジュアルにもなっている「ほおずきの実のある自画像」は
シーレと言えばこれ、とも言える代表作。
1つ1つの作品に詳しい解説が付いている今回の展覧会で
この作品の構図の妙が説明されている。
ほおずきの蔦の曲線と自画像の傾いた姿勢。
そして顔の色の複雑さ。
自分を見て、突き詰めて描いたシーレの姿勢が垣間見れる。
個人的には、洋服の黒の、大胆な筆致に興味を持った。それは壁の色の対比としても。

「自分を見つめる人U(死と男)」は、一人の人物の二人で描く構図で
色の具合と手と腕の描写が、どこか奇妙に映るほどの凝視だ。
個人的には「叙情詩人」と名付けられた自画像が好きだ。
神と芸術に向かう姿。
他にも「闘士」の曲線と色使い、
「背を向けて立つ裸体の男」「座る黒髪の男」など自画像を数多く描いた彼の
表現方法や色使いというより、向き合う姿勢が色濃い。
「啓示」は、大きさ、色使い、その深さともに非常に素晴らしい。

女性像では、なんとっても「母と子」だろう。
子供の見開いた目の、その目力に足が止まる。
「悲しみの女」では、背後にいるシーレ自身が、悲しい女の表情をより際立たせる。
妊婦を描いた(スケッチした)2枚の画も興味深かった。
私は、「プット(アントン・ペシュカ・ジュニア」の
ぷにゅぷにゅした曲線と、寒色を交えた色使いに
思わず頬を緩めるほどのかわいさを感じた。

アカデミーを退学し、仲間と立ち上げた「新芸術集団」。
22歳の若者が、新しい芸術を求めるパワーを感じさせる。
アントン・コーリヒ、アントン・ファイスタウアー、アルベルト・パリス・ギューター。
ギューターの「女性の肖像」やコーリヒの「静かな女」が印象深い。

エゴン・シーレを支えたパトロンたちにもスポットを当てる。
第一次世界大戦に従軍したシーレが、頃試合の中でも突き詰めた芸術。
そこで出会った将校との作品もある。
「カール・グリュンヴァルトの肖像」。他にも「フランツ・ハウアー肖像」。

裸体を多く描いた時代には、わいせつ罪で牢獄に収監されたシーレ。
戦争を終え、これから自分の作品が世界中で見られる。
クリムト亡き後、シーレは中心にいた。
その中で、かれはどんどん新しい表現に出る。
「横たわる女」、「リボンをつけた横たわる少女」「脚を曲げ横たわる裸婦」。
いろんなポーズの女性を、少ない線で大胆に描いてみせる作風は
これまでの、色を重ね塗りして、濃く・深く表現していた自画像とは
かなり違う。
彫刻も2点展示されていた。これからウィーン分離派を背負って立つという時期
28歳の若さで、当時流行していた(今でいう新型コロナ)スペイン風邪にかかり
死去する。
本展の最後、「しゃがむ二人の少女」をぼんやりと眺めながら
エゴン・シーレという青年の、壮絶な人生を思う。





























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Egon Schiele from the Collection of the Leopold Museum ? Young Genius in Vienna 1900
レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才

@東京都美術館(東京)
2023年1月28日(土)