その歴史、人気、入るまでの難易度と卒業生の活躍。どの面においても、日本で最高学府の芸術大学、東京藝術大学の講義が受けられる。そんな面白い展覧会があると聞いてさっそく行ってみた。ちょうど、藝祭の真っ最中で、賑わいの中で、アートの渦の中に埋もれる心地よさもある9月の最初の土曜日の、雨上がりの昼下がりだった。
東京美術学校と東京音楽学校が一つになって、日本で唯一の国立の総合芸術大学となった東京藝大。現在は、美術学部(絵画科・彫刻科・工芸科・デザイン科・建築科・先端芸術表現科・芸術学科)、音楽学部(作曲科・声楽科・器楽科・指揮科・邦楽科・楽理科・音楽環境創造科)の2学部14学科と、附属図書館、大学美術館、演奏芸術センター等の施設で構成されている(ホームページより)。そんな東京藝大の入学の年。2026年〜2028年の3年に渡って毎夏に開催するシリーズ企画の記念すべき第一回展。今年は、全12限で構成されている。
まず、入り口を入ると、ドンと東京藝大の合格通知の袋が展示されている。

1限:絵画基礎演習「まねぶ美術館〜模写でよみとく美の手とこころ〜」(写真撮影不可)
まなぶは、真似るからきた。そんな説明をはじめ、この講義の概要を教授みずからが動画で説明してくれるスタイル。こんな展覧会、改めて見たこと無いと感じると同時に、〈これが〉展覧会としてお金のとれるものになり得るのも、東京藝大だからだと認識させられる。
この講義の見所は、実施に藝大生が模写しているところ。訪れるタイミングによって、学生のデッサンは違う物になる。学生の素人が描いたものを金を払ってまで見られるか、というレベルではなく、しっかりと納得のいく芸術になっている(そういう生徒を選んでいるのだと思う)。
西洋美術を模写して、そこから自らの作風を見いだしていく。黒田清輝など偉大な卒業生の模写と同時に、現役学生の模写も見られる興味深い構成。
2限:日本近代美術史概論「西洋美術に出会った日本 工部美術学校から東京美術学校へ」

高橋由一「司馬江漢像」

浅井忠「収穫」

五姓田義松「操芝居」

黒田清輝「菊圃」

和田英作「渡頭の夕暮」
3限:西洋美術史概説�V「東京藝大で教わる西洋美術の見かた 女性画家ラグーザ玉の戦略
日本で絵画を学んでいた時代の作品、そして教師であるラグーザと結婚し、海を渡ってからの作品を比較していく。

ラグーザ玉(清原玉)「ラグーザ像」

ラグーザ玉(清原玉)「五月の薔薇」

ラグーザ玉(清原玉)「春」
4限:日本美術史特講�U「岡倉天心『茶の本』を読む」
個人的には一番好きな講義だった。武士道と比較しつつ、美のなんたるかを説いた岡倉天心の名著。東京藝大の前身、東京美術学校設立準備において、中心人物だった岡倉天心を深掘りしていく。


平櫛田中「五浦釣人」

白井雨山「老子像」

扶桑周耕「鍾馗図」

橋本平八「利久」
5限:日本画研究�T「古典模写 - 国宝絵巻をうつし、なまぶ - 」
日本画教育の基礎として、伝統的に行われる模写。作業風景の動画などもあり、芸術家というより職人のような作業にぼんやりとながめてしまう。



6限:彫刻保存特殊講義「模刻から学ぶ仏像の保存修復」
この講義も個人的に興味深かった。素材や顔料などをしっかりと調べて修復していく芸術。真正性を保つ修復の術を展示して見せてくれる。

岡田靖「縮尺模刻・東大寺南大門仁王像」

新納忠之介「渡海達磨像」〈卒業制作〉

新納忠之介「模造・一字金輪坐像」

肥後別当定慶の「毘沙門天立像」(左)をXRFやSEM-EDSなどを用いた入念な調査で科学的根拠に基づいて当時の彩色の様相を復元した王工一の「想定復元彩色模刻・東京藝術大学毘沙門天立像」(右)

「月光菩薩坐像」(左)を白澤陽治が心木構造の検証を行い、乾漆の破断面の観察を踏まえた乾漆材料の実験による検証を通じた復元(右)

快慶の「大日如来像」(左)を信太司が下地にわずかに残る漆箔層を復元したもの(右)
7限:特別鑑賞演習「藝大美術家に住む動物たち」
こどもも楽しめる講義。こういうのを挟んでくれるのがいい。

鍵野壮太「polka dots」

(右)中野恵祥「遊ぶ蛙」、(左)「胡瓜に鼠」

熊谷守一「《人物・風景・鳥獣・虫魚・草花その他》のうち鵜」

小倉遊亀「径」

ペリクレ・ファッツィーニ「猫」

伊差川新「蒔絵小屏(チータ)」

(左)朝倉文夫「つるされた猫」、(右)狩野友信「枯木鴛鴦」

丸山素直「oshaberi」

円山応挙「《花卉鳥獣人物図》のうち猿」
8限:クリエイティヴ・アーカイブ演習「鑑賞体験におけるデジタル技術の可能性」
東京藝術大学が2022年に設立した未来想像継承センターの講義。見るだけでなく、触れるだけでなく、それを言葉にする。それをAIが分析する。そんな鑑賞体験。



9限:地域文化研究「大正〜昭和初期 東京の文化的変容」

(左)中村義夫「少女」、(右)和田英作「野遊び」




加納川郁之助「水」、大野隆徳「日本橋」、近藤浩一路「京橋」、小絲源太郎「屋根の都」、前川千帆「有楽町駅」

恩地孝四朗「《美人四季》より冬」

長谷川潔「ヴィナスの誕生」
10限:近現代作家論「生誕140年 藤田嗣治 日々の記録」(撮影不可)
日本を代表する洋画家・藤田がレオナールフジタとしてパリで華々しく活躍する前の、東京美術学校時代の、つまり日本に居た頃の彼の作品を中心に展示。全体的に暗く重い作風が印象的。
11限:リサーチプロジェクト演習「東京藝術大学と中国人留学生 胡根天の留学と帰国後の活動」
東京藝術大学が、中国に及ぼした影響をみる講義。

DING Yanyong「自画像」
12限:版画制作実習「ゴッホがつなぐ日本と西洋の版画」


(左)フィンセント・ファン・ゴッホ「ガッシェ博士の肖像」
(右)レンブラント・ファン・レイン「東洋人の頭部(第2作)

(左)長谷川潔「時 静物画」、(右)ロドルフ・ブレダン「善きサマリア人」

地下のフロアから、3階のフロアに移動しての全12限の講義を終えると、最後に「修了証」がもらえる。

芸術をバランスよく概観できて、かなり満足度の高い展覧会だった。
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The Geidai Methods: 12 Perspectives on Art Study
藝大式 美術の"ミカタ" ―この夏、藝大生になる―
@東京藝術大学大学美術館(東京)
2026年9月5日(土)

