抽象的な作品の中に、点在する写真がいい。
描く、撮る、だけではない表現への挑戦が凄まじく、
その成功例が並んでいるという感じ。

1932年ドレスデンに生まれたゲルハルト・リヒターは、ドイツの東西分裂の直前にデュッセルドルフに移住し、後にケルンで活動を続けた。〈フォト・ペインティング〉〈カラーチャート〉〈グレイ・ペインティング〉、静物画、風景画、〈アブストラクト・ペインティング〉〈オイル・オン・フォト〉、ガラスや鏡を用いた作品、〈ストリップ〉など実に多岐にわたる作品を残してきた。

まず、展覧会を通して印象的なのは「カラフル」「抽象的」。
その中で、リヒターの言う『無』を意味する「グレイ」。
この様々なグレイを見続けるだけでも奥深い。
グレイの大判キャンバス2枚に挟まれた「鏡」という作品は
その名の通り、鏡がただ置かれている。

プロジェクターに投影した写真をもとに描いた「モーターボート(第1ヴァージョン)」、
油彩の「グレイの縞模様」はグレイの作品の中でも好きな1枚。
「頭蓋骨」は、ピンぼけしたような描き方で、その作品から出てくるパワーがものすごい。
アートの域に達した赤を表現した「鏡、血のような赤」、
そして、ドイツの国旗の黄色を金色にした「黒、赤、金」は
実際に目にするとグッと惹きつけられる。

アルミとオレンジが絶妙な「アブストラクト・ペインティング」(1992)は
個人的に一番好きな作品。

油彩、アルコボンドで表現された湖面の白鳥のような作品「アブストラクト・ペインティング」(1999)は、何も描かれていないようで、ものすごく雑多であるかのように感じる不思議な作品。

リヒターが過ごした森をなんともぼんやり描いた「ヴァルとハウス」
最低限の線と色でなんとも淋しげな風景を表したような「ユースト(スケッチ)」
少女の圧倒的な存在感を表した「エラ」
茶色と水色の不思議なハーモニーの「9月」
など、これらが1人のアーティストから生み出されたのか、と感嘆するほど
多彩だ。そして、どれもがとてもおもしろい。

展覧会の中で、一番目を惹いたのは「ストリップ」。
ポール・スミスのようなカラフルなボーダーを
デジタルプリント、アルティボンド、アクリルで表現する。

近づいて凝視すると、本当になんとも言えない感覚になった。

ちょうど、カラーチャートとグレイと鏡だけで区切られた展示室に居たときのような
いやはや空間というより空気まで表現したかのようだった。

ほとんどの作品には名前がなく、
ただ「アブストラクト・ペインティング」とだけ記されている。

その抽象の中に
ひとつひとつの表現があり
時には暗く
かと思えば明るく
そのどちらにも黄緑や黄色が効いている。

表現ってオモシロイ。
それを再確認させられた。











































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Gerhard Richter
ゲルハルト・リヒター展

@東京国立近代美術館
2022年6月18日(土)