始めてみたのはどこだったか。ロンドンか、パリか、ニューヨークか。とにかく、海外のどこかの街の美術館で、ジャコメッティの彫刻を見て、虜になったのを覚えている。ケニアのナイロビの、フリーマーケットで木製のクラフトを買い、その細長いフォルムが好きだった。それ、とは違う、ジャコメッティの彫刻。今回の展覧会では、アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)の彫刻、油彩、素描、版画など合計132点の作品を時代とテーマを追って見ることができる。まずは、初期のキュビスム・シュルレアリスムの時代。まずは、ブロック(キューブ)を重ねて体にしてみたりという、頭で想像するジャコメッティの世界とは違う形を見せてくれる。この時代は、どこかかわいらしい。丸っこいイメージだ。『カップル』という作品が目を惹く。その彫刻をちょうどフランス人の男性と日本人のカップルが見ていて、その背中越しに見ると、より一層よかったりする。『女=スプーン』もシンボリックだ。画家の父親の影響でセザンヌなど、見えるままを捉えようとするジャコメッティ。彼の表現の追求が始まっていく。『鼻』という作品は面白い。鼻だけではなく首も長く、何より吊す作品なのだ。戦争になり、彼の創作は小さいモノへと。6pほどの小さい男の像もある。マッチ箱に入れて持ち運ぶ。そんな作品が続く。彫刻とデッサンが交互に展示されているイメージ。直立不動で、気をつけをした『髪を高く束ねた女』は実に格好いい作品だ。1947年、細長い人物像という独特のスタイルを確立したジャコメッティ。彼は群像を手がけるようになる。中でも『3人の男のグループT(3人の歩く男たちT)』は、すれ違い、交差する、まるでスクランブル交差点での光景だ。さらに『広場、3人の人物とひとつの頭部』では、4体しか彫刻がないのに、まるで広場のような賑わいを感じさせる。そのまま、パリでの生活の時代へと作品は移っていき、デッサンから当時の彼の生活が垣間見える。例えば、『マルグリット・マーグの肖像』などの油彩を見ても、かなり彫刻的な印象を受ける。日本人の矢内原氏との交流も描いている。弟のディエゴが好んだ動物。その影響からか、彼も『犬』と『猫」という彫刻を残している。このふたつは、好きな人がかなり多そうだ。まるでチーターのような無駄のないフォルム。シュッと細いのかっこいい、という印象ではなく、ちゃんとかわいい。ここまで、細長い彫刻を見てきて、当たり前のようにふと思ったりする。ジャコメッティの表現する人は、細いだけではなく、ペラペラ(薄っぺらい)のだ。『ヴェネツィアの女』と名付けれた9体の像が、ボーリングのピンのように『ヴェネツィアの女T」を先頭に並んで展示されている。この展示の仕方にはグッとくる。そして、その細さと薄っぺらさ、そこにある大きな存在感などを実感していく。そして、今回の展覧会の中で唯一写真可能スポット。これはチェース・マンハッタン銀行プロジェクトで、ジャコメッティが手がけた屋外彫刻。これまでこだわって表現してきた【女性立像】【頭部】【歩く男】をテーマに制作した。その三体を、今、ッ美術館の一室で写真に収めているのが不思議だ。近くで見ると、細く、薄く、《ゴテゴテしている》。そんな彼の作品を見続けて、ふと国立新美術館を出て六本木を歩いていると、いろんなジャコメッティ的なモノが目に入るようになった。


ジャコメッティ展
Alberto Giacometti: Collection Fondation Marguerite et Aime Maeght

国立新美術館(六本木)
2017年8月11日(金)

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