技法の練熟の末に個性は生まれる


ピカソの絵や彫刻は個性的だ。新しい芸術を生み出した人に違いはない。子供のうちから、人とは違うこと、もっと個性的な表現を。そんな風に思いがちだが、当のピカソの基礎は、これでもかというほど鉄壁だ。つまり子供時代の絵や青の時代と呼ばれる頃の絵画は、実に「しっかりしている」。

土台がしっかりしていてこそ、その先に新しさが光る。そんな思いにピタッとくる言葉が、「平成」の文字を書いた、書家・河東純一さんの話にあった(朝日新聞・天声人語より)。「若い頃は、手本を見ながら同じ文字を一晩中練習したそうだ。明け方には、書き終えた半紙が太ももの高さまで積み上がる。技法の練熟の末に個性は生まれる、が師匠の口癖だった」。

個性が光るのは、その裏に(下に?前に?)、徹底した練熟がある。本物で安定した確固たる個性は、幼少から少年時代の練熟にある。とかくなんでも手軽で、物珍しさにばかり目が行きがちで、それを個性だと思ってしまうような今の時代にあって、このコトバは、ずっしりと重い。

2022年11月12日記