晴天、でもなく、桜満開とも言えない春の午後。それでも法隆寺は、法隆寺で、なんというか飛鳥時代の、まだ折れ曲がったり破れてない時期の、日本史の教科書で習った人や、モノの、そのままの姿がある。絶対的な歴史の光景は、とても素晴らしい。奈良県斑鳩。奈良駅からバスに揺られ、740円もかかる運賃分を走るとようやくたどり着く。それぐらいの外れ。だから漂う雰囲気と静寂は、空間として法隆寺的で、そのイメージ通りの光景。

当時、政府の中心だった飛鳥と、国際港の難波を結ぶ陸水路の要所、ここ斑鳩に聖徳太子は生活の場をつくり、国政と国際的な「活動」を行う。同時に、じっくりと「仏」の道も究めていく。若くして、冠位十二階や十七条憲法を制定した彼の、それを生んだ泉のような、濃い空気とゆったりとした時間がある。一言で言えば、「空が広い」空間。それは「必要な分だけ」ある光景。

そんな雰囲気を存分に吸ったら、後は仏像など歴史的遺物にため息をつく。仏像が美しいというのは、なんとなくでも、明確に確実に感じられる。如来に菩薩に明王。いくつもの仏像が整然と展示されている。この真新しい博物館の、金ぴかと朱の「浅さ」が、余計に法隆寺の重さを感じさせてくれる。特に、百済観音の姿形は、感嘆してしまう。僕はこの菩薩像を何度も見ているが、何度見ても素晴らしい。ガンダーラ美術のスマートさと、何百年経ても変わらない「美」は、やはりすごい、なぁ。

夢殿をぐるりと回ったら、最後は「中宮寺」へ。花、香、暗さ、そして重み。その全てをあつめた御本尊、弥勒菩薩半跏像の前で、目を閉じる。前回紹介した京都・広隆寺の弥勒菩薩半跏像は「展示」されているが、ここは「魂」が今も入っている。

何をもって絶景と呼ぶかは人それぞれだが、世界最古の木造建築があり、その周りを包む雰囲気に浸る。ただ眺めるのではなく、その中に佇むというのも、ひとつの絶景だと思う。

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斑鳩 (奈良)

法隆寺