黒、柿、萌黄の三色ストライプ。舞台には定式幕がかかる。
客席では「間もなく開演ですので、携帯電話の電源を切ってください」と制服姿の女性が回る。どうも、桝ごとに担当がいるのだろう。
歌舞伎。僕は生まれて始めて、この日本の伝統かつ世界無形遺産の舞台へと足を運んだ。と…、重々しく構えることもなく、客席には「身構えた格好」の人もすくない。もちろん着物の人もいるにはいるが。ジーパンだった僕も、入れた。(まぁ、2階席だったが)
幕間の弁当が入口で予約をとっている。1,600円!2,200円!って…。この辺りが歌舞伎だなぁと感心したり。
間もなく開演。午後4時からの午後の部。演目は「染模様恩愛御書 -細川の男敵討」。通し狂言ということで、入門編にはいいかな、という僕のチョイス。結果、大成功だった。
まず、三色の定式幕がバサッとおりる。と、ライトアップされた回転式の2階建て舞台で着物姿の女が踊る。優雅!綺麗!ファンタスティック。3列前に座っていた外国人夫妻も、「OH〜」と感嘆したに違いない。それ以上に僕が感嘆。
飲み屋で話す男5人。初めのうちは「ん?えええ?なんて?今?」のような言葉の壁。が、そんなものはすぐに克服。ストーリーへと入っていく。とにかく着物が素晴らしい。もっというならあのライティングが群を抜いている。色づかい、身のこなし、しなやかに豪華。絢爛豪華という響きにどこか毒々しさを感じる大阪にあって、あそこまでスマートにこなしてくれると、よだれが出そうなほど感嘆する。
「松嶋屋!」の声をうけ登場した片岡愛之助演じる和馬。浅草寺の庭で、すみれの衣装が映えるではないか。見ている僕は、「え?これが染五郎?」などあさってな疑問を抱いていたが。いやいや、ちゃうな。まだやな、と。この、和馬に恋をして、兄弟の契りを交わすことになる男。それが大川友右衛門。その配役が染五郎だ。
まだ、出てこない。う〜ん、それにしても、舞台で生音を使うのはいいなぁ。
出た!「高麗屋!高麗屋!」。一階席からだみ声が飛び交う。
市川染五郎、登場。もうストーリーに入り込んでいたので、ぐーっとためて、かけ声を待ち、そしてガツンと言い放つ決めの言葉にも、なんとなくわかるようになってきた。このタイミングを外すと台無しなので、もちろん叫びはしないが。
幕間。二時間はあっという間に過ぎた。この先は火事があって、それでクライマックス。
そのぐらいの下調べはしていった。幕間明けの数分間は、ちょっと客席の機嫌伺いな面白演出。「ちょっと、ちょっとちょっと」など流行語が飛び出し、「ハンカチ王子のような息子が欲しい」と頑固な親父が嘆いていた。アハハハハハ。笑いがおこる。
初めての歌舞伎鑑賞。伝統や退屈というイメージをあっさりクリアーして、その上に圧倒的な力で舞台のすばらしさを教えてくれる。現代においても最高レベルのエンターテイメントだと、そうは聞いていたが、目の当たりにすると、実感する。
僕、歌舞伎にはまりました。