明治時代。日本を飛び出して世界で認められた画家、河鍋暁斎。しばしば、伊藤若冲と並んで賞されることも多い。が、ほぼ無名。例えば、メトロポリタン美術館には、数多くの作品があるのに、日本人で知っている人となると・・・、である。
この人物、センスが素晴らしいのである。特に、ユーモア。山水画を書かせても、人物、動物、植物どれも、確かな筆遣いで、繊細かつ大胆な構図だが、どこかとてもユーモラス。思わずにんまりしてしまうのである。そこが、暁斎らしい作品ともいえる。
今回は、明治時代に日本文化を惚れ込み、暁斎に弟子入りして暁英という号を有した建築家、コンドルとの関係を追った展覧会。二人の「重なり」」が、それぞれの作品を通して見られるところが非常に面白い。
まず、『枯木寒鴉図』という水墨画である。妙技二等賞という賞に輝いた暁斎の作品で、当時100円もの高値を付けた作品。100円の鴉といって話題になったという。確かに、この鴉、目を中心に「力」があり、一匹が寒空の枯れ木に威風堂々と立っている姿は素晴らしい。
そしてコンドルの作品。『竹図』っというのは、サイズ感といい、バックの花といい、やっぱりどこか日本人にはない構図とセンスが光った。暁英として日本画を習得する名からで、コンドル氏の最高到達点は『雪中鷹図』と『百舌図』だろうか。この2匹が並んでかけられると、非常に見応えがあった。
さて暁斎。『二羽の泊鴉に山水図』では、叫ぶ鴉が印象的。『鯉魚遊泳図』は、画面を縦横一杯に使い、鯉と海老を、『白鷹に猿図』は、とくに目力にやられる。3枚並んだ『浦島太郎に鶴と亀図』は、花札よろしく、ザ・日本の美を。『鯉図』では、水面の波紋が大胆かつ斬新で、『うずくまる猿図』は、猿の中でも一番すばらしい毛並みと表情で、見ているモノを惹きつける。『瀧、鷹に猿図』は、瀧から落ちる猿がどこかユーモラスで、『蜥蜴と兎図』では、兎に踏まれたトカゲの「おぎょっ」という表情がマンガちっくだ(『蛙を捕まえる猫図』もしかり)。龍好きの身としては、『龍神に観音図』の龍からは目が離せず、『ぶらさがる猿図』の猿と対比して、暁斎の奥深さを思う。
『布袋の蝉採り図』を見て、思わずにっこりしない人はいないだろう。この作品が、個人的にはトップ3。とにかく、多くの墨線を巧みにつかって現す世界感から、この蝉を採ろうとする布袋さまのぼってりおなかが、少ない線で見事なのである。
『暫』という狂言を描いた図は、とてもイラストちっくで現代でも通用する一枚だし、『月に狼図』は、食われた人の「歯」と狼の黄色い目が強烈だ。『柿に鴉図』は、墨の世界に柿のオレンジが、なんとも絶妙にインパクトを持ち、山水画も『霊山群仙図』になるとゴールドグリーンの世界へ一気に誘ってくれる。
『蟹の綱渡り図』でにこっとわらい、『眠り猫』の毛並みや表情にかわいい、と癒やされ、『放屁合戦図』に「なんじゃ、そりゃ」となる。
階をまたいで、のんびり巡りつつ、河鍋暁斎という人物のユーモアに魅了されていく。そして最後の最後、『新板かげづくし天狗お踊り』という36.2X24.5cmの小さな一枚に釘付けにされた。天狗になってるな、という天狗が、イラストチックに踊るのである。これは、とても素晴らしかった。