『痛いよ』という曲が素晴らしい。感覚的には宇多田ヒカルがやって来たときのよう、とまで言われたので、どれどれ、と20歳の若者の創り上げた「世界」を聞いて、びっくりしたのを覚えている。いろいろとやりたいことが多いんだろうな、というアイデアの豊富さにばかり耳がいってきいている打ちは、あぁ、過去にもよく似たのがあった、とおじさんはおもってしまうのだが、それらのどれものクオリティが恐ろしく高い。これは彼にとってセカンドアルバム。ここから頭の中のアイディアがどんどん膨らんで、ついにはアイドルをプロデュースするに至までの清竜人というアーティストを聞いて、改めて、この『WORLD』というのは傑作だ。それは、まだ未熟っぽさしか表現できない強さや直球や、何しろ、歌詞の世界を、音楽の特異性に頼り切らず、しっかりと語るからかもしれない、なと。
その歌詞を追いかけつつ記すと、まずは『ワールド』。
アルバムトップの曲、かつこの世界へようこそと向かい入れて話さないだけの、わかりやすさとしっかりとした土台と、とにかく心地よい音と言葉がいい。
♪「そうは言ったってさ
不安で泣きたい日もあるじゃない」
『そう だからこそ
手を叩いてさ
ぼくは今 ここにいるんだって
叫んでみよう
そんな小さな音が
きっと世界を作るから
ほら そこは きみのワールドだ』
2曲目は明るく軽いタッチで『マドモアゼル』。もう始まりの2行だけでやられてしまう。
♪ぼくと君とのランデヴーが 幸せな時間であるほど
ぼくらが気付かぬうちに ばれぬように過ぎていくんだね
そして、名曲『痛いよ』。この聞いたことのあるような世界観の中で、まったく新しいものを生み出してしまったというか。小難しいことを考えるまでもなく圧巻。(始まりのピアノは井上陽水の少年時代か?なんてことも)
♪ねぇ きみが思っている程
ぼくは馬鹿じゃないよ
鈍感なフリするのも
堪えられなくなってきたんだ
ぼくのために
さりげなく隠している過去も
たまにつくやさしい嘘も
気付いているんだよ
きみが使う ことばひとつで
ぼくはいつも 胸が痛いよ
次の『ウェンディ』は、好きな人の多い曲だと思う。音と言葉と声がどれも素晴らしい清竜人の世界の中で、これがスタンダード。ただ、恐らく十代だった彼の思い描く成功後の典型。
♪いつかぼくが大人に変わってしまって 余計な知恵や知識も身に付いて
不自由になることを考えてみたよ
沢山稼いで 手に入るもの全て 手当たり次第あさってみたり
沢山お金使って 価値あるものを備えてさ 自分の価値を見いだしても
結局 最後に 残るものは 寂しさだけじゃないか
次の『あくま』は、音調と歌い方を先に聞いてからタイトルをしると、え?こんなにかわいかったのか、という意外性があり、『ヘルプミーヘルプミーヘルプミー』へと続くのが気持ちいい。
♪原因不明の恐ろしいこの病いよ
いつしか誰かが治してくれるかな
こうして 思いを 歌ってる それだけで少しだけ救われているんだ
ヘルプミーヘルプミーヘルプミー
心から
ヘルプミーヘルプミーヘルプミー
精一杯の
ヘルプミー
続く『イザナギの後遺症』あたりまでくると、完全に清竜人中毒になってくる。サビが特に癖になる。
♪ウィ ウィル メイク ア ゴッド『偽造のワイフ』で
さぁさぁ ミッドナイトダンス
『がんばろう』という応援歌は、とてもストレートに、そして特別の色を持っている!
♪いつしか必ず誰もが幸せになれるなんて言わないけど
そう信じることで必ず未来は変わるものだと思うから
個人的には次の『偉い偉いさんのボタン』のこの歌詞は、グッと来て、他の曲の詩の世界も違った見方にさせてくれた。
♪ミサイルじゃぼくのもの何にも壊せないよ
ミサイルじゃぼくのもの何にも壊せないよ
リズミカルにポップに『マイ☆スター』は、くそまじめにジメジメとメッセージを発することはしないよ、という彼自身の根底を感じさせる。なのに、この詩は、凄まじい
♪空にない星には自分を照らし合わせてメランコリーになる
空にない星には自分を重ね合わせて小さく願いかけてる
最後の二曲、『それぞれそれぞれ』と『ラヴ』。これはアルバムをグッと締めて、そして、グッと清竜人のファンにさせる。なんともずっと聞いていたい気持ちにさせられるという意味で、ファン。
♪平和なんてそれぞれで
価値観なんてそれぞれで
人間なんてそれぞれで
AH〜 HA〜
「それぞれそれぞれ」
♪なぜ可能性が0という
ことはないと知っておきながら
実るか否か分からない
会いに生きるのが恐いの?
ぼくは不甲斐ないよ
疾うに中途半端な
プライドや理性や羞恥心も
捨てたはずだったのにな
今 涙が止まらないよ ねぇ
こうしてぼくが
数えきれぬ 数え切れぬ
程の自問自答を
さぁ 繰り返す 繰り返す 程に
喜んでいても 苦しんでいても
今のぼくには何も分からない
「ラヴ」
素晴らしいアルバムだ。
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