上野公園は時に「森」とも呼ばれるほど、木々に囲まれた都会のオアシス的な場所。その中に、5つの美術館や博物館など文化施設が存在する。文化の森、とはそういう理由から呼ばれているらしい。
「国立西洋美術館」はなかでも一見の価値あり。高さといい、空の見え方といい、両サイドの木の量といい、なんとも絶妙なのだ。埋めれず、主張しすぎず。美しい。
設計は、近代建築の三大巨匠のひとり、ル・コルビュジエ(Le Corbusier)。今年(2007年)の夏、話題になったル・コルビュジエの建築群を世界遺産に!という動きの中に、この建物も入っている。ガウディの作品群のように、一人の建築家の作品をまとめて世界遺産リストにいれるという画期的な動きだ。フランス政府が主導して、暫定リストに載せた。もしこれが実現すれば、7ヵ国の23の建物が世界遺産ということになる。建物で世界遺産というのは、日本では「お寺」しか思い浮かばない。これだけの近代建築がそうなるなら、益々価値があがるだろう。その前に、一度訪れるというのがいいかと思う。
所蔵品も一見の価値がある。常設展示されているものも、さすが名前に「西洋」をつけているだけあって、日本国内でこれだけの規模で展示している美術館は少ないだろうな。僕の一番のお気に入りは、カルロ・ドルチの「悲しみの聖母」。青のマントのフワフワ感や伏し目がちな目元の絶妙なタッチは言うに及ばず、なにより胸の前で合わせている「手」の色がいいのだ。透き通るようで、血色のいい、悲しいという気持ちが顔の色などには微妙に入っているが、手にそれはない。マントで影になることもないので、これだけ鮮やかな色になっているとも思われるが、僕は、それほど大きくないこの絵の前に立ち、ロープで締め切られた3階への階段の下あたりで、ぼんやり、ずっと眺めていた。
ちょうど、企画展「ムンク展」が開催中だったので、それにももちろん顔を出す。地下からスタートして、「吸血鬼」なる作品からスタートする。ムンクと言えば「叫び」で有名。4枚?5枚?忘れたが、何枚かあるうちの一枚はどこかで見たのを覚えている。「世紀末」のような空の色、男か女か、一人の人間が唸るように叫んでるあの作品は、有名すぎて、DoCoMoの絵文字にもなっているほど。それと同じ構図で、「不安」と「絶望」というのがあり、それらがオスロから来ていた。不安は、素晴らしい作品だった。片目を失明してから鮮やかな色調を使うようになったといわれる彼の様々な時代の作品に触れることができて満足。僕はいつも、ムンクの作品を見ると、筆のタッチの伸びやかさにすがすがしい気持ちになる。空の色や、赤い服の色など、ぐ〜っと曲線を描きながら伸びていくのだ。これは、間近で見ればより分かりやすい。この伸び、がいいんだな、と思う。
美術館の庭には、ロダンの地獄の門ががある。ライトアップ用の装置があるあたり、夜になると、また違った見え方をするのだろう。
今度は、夜に来よう、と決めた。
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東京(日本)
国立西洋美術館