“くだん”という響きがいい。タイトルの理由を聞かれても「それだけ」とにんまりする陽水のこのアルバムは、16枚目のオリジナルアルバム。
前の年に奥田民生と『ショッピング』を送り出して、すぐにこれが出たことで、精力的な活動ぶり。11曲がぎゅっと詰まって、聞きごたえのあるアルバム。ジャケットの猫は顔だけだが、娘とふたりで、お互いに形容詞と名詞を言い合って、「長い」と「猫」を組み合わせた曲『長い猫』を思わせる。
さて、一曲目の『炎熱の月明かり』。
1991年に忌野清志郎、細野晴臣、高中正義と一夜限りで結成されたバンド、ハバロフスク&マフィアの曲。心地いいリズムが、陽水の声とマッチする。一気にポップになって『SINGING
ROCKET』。Andrew Rittenの編曲が印象的だ。『英雄』を挟んで、『最新伝説』は、ここにきて作詞・作曲・編曲をすべて陽水が手掛けた一曲。さいしんでんせつ〜、という言葉が、ね、もう陽水の声の太さと伸びを活かす。
布袋寅泰が作曲と編曲をした『アンチヒロイン』は、次の『ラブレターの気分で』と合わせて、このアルバムの中の中盤をしっかりと支える構成。そこから『ロングインタビュー』『TEENAGER』のつながりが、あ〜井上陽水だなぁ、という安定の響き。
『エンジの雨』は、何度も繰り返して聞いているうちに、何がいいたいのかということがコロコロと変わって行く不思議な曲で、『ビルの最上階』では、『最後のニュース』を一つのビル(東京という待ち?日本という国?)をぎゅっと詰め込んで、韻を踏んだりずらしたり、そのバロック感がたまらない。
友達に手紙ばかり書いては、ありふれた想い出と言葉ばかりを並べてる。デパートで孤独なふりをして、満ち足りた人々の思い上がりを眺めては、昼下がり、美術館で、考えたり。
「誰よりも幸せな人/訳もなく悲しみの人」。いろんな人が『長い坂の絵のフレーム』だというバラードの名曲。本当に、声の伸びが心地いい。個人的に一番好きな曲だ。
生まれつき僕たちは
悩み上手に出来ている
暗闇で映画まで涙ながらに眺めてる
たそがれたら街灯りに溶け込んだり
これからも働いて
遊びながら生きて行く...
(『長い坂の絵のフレーム』より)
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