郷土料理百選?
2008年01月06日
「農山漁村の生産や暮らしの中で生まれ、そして農山漁村で育まれ、地域の伝統的な調理法で受け継がれてきた料理で、かつ、現在もそれぞれの地域でふるさとの味として認知され食されている料理」。農林水産省は、このほど「郷土料理百選」として各都道府県から99品目の料理を選んだ。最後の1品は、それぞれの人の中で、特別な郷土料理を加えて欲しいという趣旨らしい。それで100品。

代表的なものを挙げると、石狩鍋(北海道)、わんこそば(岩手県)、きりたんぽ鍋(秋田県)、あんこう料理(茨城県)、深川丼(東京都)、うなぎの蒲焼き(静岡県)、賀茂なすの田楽(京都府)、白みそ雑煮(大阪府)、ボタン鍋(兵庫県)、三輪そうめん(奈良県)、カキの土手鍋(広島県)、ふく料理(山口県)、讃岐うどん(香川県)、かつおのたたき(高知県)、水炊き(福岡県)、馬刺し(熊本県)、ゴーヤーチャンプルー(沖縄県)などとなっている。確かに、土地土地の特産から生み出され、今も受け継がれている料理だ。

同時に農水省は、「御当地人気料理特選」というもの選んでいる。これは、御当地自慢の料理であって、広く国民に支持されているものらしい。ウニ・イクラ丼(北海道)、牛タン焼き(宮城県)、宇都宮餃子(栃木件)、もんじゃ焼き(東京都)、よこすか海軍カレー(神奈川県)、たこ焼き(大阪府)、神戸牛(兵庫県)、お好み焼き(広島県)、明太子(福岡県)、ちゃんぽん(長崎県)、黒豚(鹿児島県)など23品。

これらを選定しているところが、農林水産省の農村振興局農村政策課という点が注目だ。どうもこのニュースを読んでから、ぼくは「何のための選定?」という感が否めないでいる。結局これらを選んで、「さぁ、何かに役立ててください」というのが見え透いており、「郷土料理」という言葉が持つ響きとは、かけ離れたところに本音があるように思えてならないのだ。

郷土料理というのは、例えば、盆や正月に帰省して、普段レストランで食べているようなものではなく「居間の炬燵に入って突っつく」という感じのものではないのだろうか。

そんなイメージとは違い、「百選」に選ばれた名物です!という看板を頼りにお店に出して、観光客に食べてもらおう、もっと言えば「お取り寄せ」で通信販売しちゃおうという狙いが伺える。村おこしに展望台を建てたり、お土産物を開発したり、その延長に「伝統的な料理法で受け継がれてきたふるさとの味」が使われようとしているのだ。きっとそういうことだろう。何とも言えない寂しさがある。

もう一つ、かなりひねくれた考え方だろうが、京都出身でも賀茂なすの、それも田楽が家庭料理として、生活の中に浸透してくることは珍しいし、熊本の方は馬刺しがそんなに一般的か?これだけ行き来の頻繁かつ煩雑になった日本で、京都に生まれ育っても白みその雑煮を食べていたりする。となると、結局「熊本の馬刺し」や「京野菜」なんかが「それ」と決められて、熊本出身だから「そうそう、馬刺しだよ、有名なのは」とか、「賀茂なすに九条ネギ、蕪菁の漬け物だね」なんて、都会に出ると出身地のことを語ったりするはめになる。

【だからあえて郷土料理として選定したんですよ】という農水省担当者の声が聞こえてきそうだが、郷土料理は、そんなにしてまで守らなくても大丈夫だろう、という気がする。

そもそも水に山に、谷や駅に至るまで、百選が多すぎる。規模の大きなものを言えば世界遺産だってそうだ。リストアップして、定義する。それで決めてしまう。ガイドブック的な役割で、一つの指標として使うならいい。リストアップすることで多くの人に知ってもらい、関心を持つ人が増えれば善い結果も生むのだろう。(悪い結果も同時にあるが。)
ただ、あくまでも郷土料理、ふるさとの味と言われると、やはり違和感がある。ミシュランじゃないんだから、と思ったりもする。
注)あくまでも今回の「郷土料理百選」は、みんなが選んだという前提があるが・・・。

「へぇ〜そうなんだ」的な感慨だけで、リストアップされたものを感じるのではなく、自分基準で、自分の舌できめたい。そういう意味で、最後の1品、自分で選べる郷土料理というのを考えてみた。

と、ふるさとの味か、、、カレーライス?チャーハン?という、なんとも寂しいものしか浮かんでこない。

ここに選ばれた郷土料理を、ふるさとの味だと疑いもなく言える子供が増えるように。観光客だけではなく、家庭の食卓に出してみましょう。それでこそ、意味があるのだろう。そうなると、山口県のふく料理や、兵庫県の神戸牛は、なかなか大変なことになりそうだ・・・とか何とか思いつつ。来週訪れる予定の長崎で、ぼくは卓袱料理とやらを食べてみようとしている。「へぇ〜そうなんだ」的に。(焦)



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