本場という言葉がつきまとうミュージカル。特に、ニューヨーク(スケールが大きい)や、ロンドン(質がすごい)などでも見られるライオンキングは、わかりやすいストーリーと見せ場の多さから大人気の演目でもあり。その中で、日本のミュージカルに革新を起こした劇団四季のライオンキングの世界観。これは、20年というロングラン公演の中で生み出された圧倒的なものがある。まず、演目に合わせて小屋(会場)を造るという歌舞伎の世界でも聞くような質のこだわりがある。そして、映像が外に漏れない、つまりは、その場で体感するしかないオリジナリティ、希少性も手伝って、人を惹きつけ続けるミュージカル。演目的には子供から大人まで愉しませるものであり、同時に、子供料金の設定も嬉しい演目だ。

開演の30分前に開場し、中に入ると、子供には専用のクッションが貸してもらえる。前の人の肩と肩の間に顔がくるようにずれたシート配置と、良い意味でコンパクトな空間に、座ってさっそく興奮がくる。1階の小さなグッズ売り場も、2階の簡易なフード売り場も、もちろんごった返していて、ちょっとのぞいているだけで、すぐに開演時間になる。で、始まり。透き通るような声で、「動物語?」の開始の合図、そして、象やキリン、サイが次々と現れ、一階席に座っていると、真横の通路を動物たちが通っていく。開始、数分で一気に観客を魅了するシンバ誕生のシーン。歌と踊りと、光の演出と生演奏が空気を一気にライオンキングのそれにしてしまう。もう、これは圧巻。呼吸も忘れて見入ってしまい、王が高々とシンバを掲げると割れんばかりの拍手が巻き起こった。

ストーリーは周知なので記さないが、ヤングシンバの演技は素晴らしい。子供の学芸会気分で見るとドキドキもするし、単純に演者として見ると、質の高さに驚く。なんと、透き通った声なんだろう。悪役がいて、乗っ取られて奪い返すというわかりやすさに、スパイスを散りばめる鍛え抜かれたダンス。そして何より、ライティング。演目に合わせてつくられた舞台装置のどれもが、もはや圧巻と言うほかにない。ハイエナの激しいダンスは、ものすごいものを見せられていると頭の中がズキズキするし、女性はやはりしなやかに、それでいて圧倒的なスキルで舞い踊る。演出のどれもがそぎ落とされて素晴らしい。

心配ないさ〜。このお笑い芸人の影響で有名になったコトバは、以外にも早速、あっさりと出てきて、シンバは、見せ場のダンスと歌声に、これでもかというほどの悩みとふっきれと、力強さを思わせる。笑いを散りばめ、影をうまく利用したライティングがあり、草や木々のパフォーマンスはドキッとするほど斬新で。中休憩までのことと、エンディングまでの疾走感が、見る者のからだの中でかき混ぜられ、軽い脳しんとうのように見とれてしまう。

ミュージカルってすごい、そして劇団四季って素晴らしい、何よりライオンキングって面白い。見終わった後、スタンディングオベーションが巻き起こったこの日のパフォーマンスは、本当に、これほどまでに興奮の余韻を残すものか、と思わせた。


















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ミュージカル
劇団四季「ライオンキング」
@四季劇場「夏」(東京・大井町)
2019年5月3日(金)