ブロードウェイのミュージカル、という言葉だけが独り歩きして、その実を知るものはなかなか少ない。何よりロングランの演目でも料金が違い、文化的地盤の強固なニューヨークにおいては、チケット種も多彩で「お得に行く」ことに躍起になりかねない。子連れだからディズニー系の演目にしよう、と思っても、ライオンキングとアラジンでは値段が大きく違う。当日、並んで空いている席を割引料金で買おうというのも一つの手だが、いろいろと調べると「ライオンキング」ほどの人気演目は当日券でも値段は落ちず、並び席で取るなら事前予約がベター、というのだ。
にしても、値段がはる。もちろん、世界最高峰のミュージカルであり、そこで醸し出される空間は格別で、値段を超えるものがある、というのもわかる。が、セクションORCH、Row Y、Seat 115-117の3枚のチケットが合計で558.20USドル。6万円ほどのエンターテインメントにしり込みしたりする。しかも、万が一行けなくなった時の全額補償(インシュランス)を加えたら、5000円ほど高くなる(チケットサイトで買うと、強くお勧めする、というインシュランスを思わず選んでしまって、結果、後悔した)。
どうしよう、どうしようとわが家は、チケットを買っていくかどうか悩む。が、7歳の息子は別。今年のGWに劇団四季のライオンキングを見てドはまりし、iPadでも繰り返し見ている。映画も見ている。もう、ライオンキング以外考えられないらしく、夫婦で必死に「アラジンもおもしろいよ。幼稚園の時、演劇でやったでしょ?」と誘導するも、失敗(笑)。ということで、ええい、かっちゃえ。一階の中央席も空いているし、夜の部じゃなくて昼の部の方がやっぱりいいだろう。ということで、買った。買ってみると、グッと気分が盛り上がる。一気に楽しみになる。これが、6万円という値段を超えた気がする。
さて、前置きはこのぐらいにして、息子の感想から。(1)うたとおどり:ニューヨークの勝ち、(2)劇場:ニューヨークの勝ち、(3)衣装:東京と同じ、ということだった。そもそも、息子は、ヤングシンバの歌う「はやく、お〜さまに、なりたいっ」といのを暇さえあれば歌い、iPadでは英語でみているので「Oh I just can't wait to be king〜」というのも気が向けば口ずさむのだ。それをどこで歌うか。もう、ストーリーは頭の中に入っている。
劇団四季を見た時と、ほぼ同じような席でみた分、劇場の広さにあまり違いは感じなかったが、ニューヨークのどセンター、タイムズスクエアにあって、世界の中心とも思える雰囲気が、劇場を広く見せる(実際に、広い)。冒頭、シンバの誕生のシーンで動物たちが踊り、サークル・オブ・ライフするときは、通路の両サイドから像や鳥たちが出てくる。なるほど、劇団四季、完コピだ。
舞台の下と、2階の両サイドにある生演奏。そして、ハーモニーの聞いたパワフルな歌。しっかりと演じ切る動物たいの動き。気持ちが高ぶり、盛り上がり、もうわくわくがとまらないのは、ライオンキングのなせる業。隣の息子の目がきらきらしていた。
ヤングシンバ役の子は、声変わり寸前なのか、子供らしいキーンとした高音で歌うというより、うまさがうかがえ、ダンスが素晴らしかった。ナラ役の子もさすがだ。成長したシンバ。驚きは彼のパフォーマンス。こんなに歌がうまいと、その「歌の波長・風」に乗ってどこかに飛んでいきそうだ。コミカルかつ完璧なダンス。ハイエナ達のダンスもすごかった。
ストーリーは言わずもがななのでなぞらないが、すべての演出が安定していて、もうちょっと不安でどきどきしてもよさそうだが、何百回もやってるというところが垣間見れて、もうちょっと粗削りなパワーというか、そういうのが欲しかったりもする。が、それはブルーノートあたりのジャズでどうぞ、ということなのかもしれない。
休憩前、成長したシンバが「しーんぱーい、ないさー」と叫ぶシーンの英語を、なんて言ったか聞き逃してしまった。観客は、私たちも含めてほぼ外国人観光客。日本とはちがって、一つ一つのシーンの終わりに大きな拍手と歓声が沸き起こる。それは、予定調和されているようで、それでも、一緒になって手を打ち声を上げると一体感が出る。
結果、見てよかった。行く前から、見ている間、そして見た後の三段活用で値段はとっくに超えておつりがくるほどだった。少し残念なのは、スタンディングオベーションで拍手を送って、幕が下りるとさっさと観客が去り始めたことで、カーテンコールはなかった。拍子抜けするほどの終わり方だけが、少し残念だったが、見終わって、じわじわくるあの空間と時間。これを記しているのは二週間以上もたった「今」だが、くっきりと声と踊りのシーンが思い浮かんでくる。さすが、というミュージカルだった。
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ブロードウェイ ミュージカル
Disney’s 「The Lion King」
@MINSKOFF THEATR(ニューヨーク)
2019年8月25日(日)