中央線に乗って、都内の散歩に出る。まるでそんな構成のライブアルバム。宮沢和史の生の声がダイレクトに心臓に届くような音源に、聞いている此方に訴えてくる。『中央線』。JAPANESKAに収録されたこの名曲を初めて聞いたのは私が中学二年生の時。思春期真っ最中に、中央線って何?と思ってた生まれ故郷・京都で聞いたのがはじめ。それから、矢野顕子さん、小田和正さんにカバーされながら、この曲は毛色を変えつつ、聞き続けた。そして、一周回って、やっぱりミヤの声で。椅子に深く座って、お酒でも飲みながら聞きたい。まるでジャズのようなアコースティックアルバムだ。
『星のラブレター』は、若者が勢いを持って「君に会いに行く」と言っていた時代を、思い出したかのように回顧して謳う。まるでそんな曲に仕上がっている。『遠い町で』は名曲中の名曲。これも、ピアノバージョンよりこちらの方が好きだ。ブルーハープが所々で気持ち良い。『沖縄に降る雪』『白いハマナス』は、散歩道で口ずさむ感じか。タイトルの寄り道が、濃厚に感じられる。
ユニコーンの名曲、『すばらしい日々』が都会ので響き渡れば、きっとこんな風に気持ちいいんだろうな、と思えてくる。『この広い世界で』に続く伸びやかなサビの部分に、気持ちがきゅーっと絞られるようなそんな思いがする。
『光』。昨日より、一昨日より、知り合った日の君よりも、今ここで、見つめている、君が一番、きれい。燦々と輝く光というよりも、「君」に、まるでスポットライトのように差す「光」。静かに歌い上げるその世界感に、四十を越えると、しみてくる。
「どうもありがとう」。ここで、一つの幕を迎える。
続いて『楽園』。次の『島唄』に続くまで、沖縄の世界が浮かび上がってくる。心の奥の方で、光り輝く沖縄の、そんな楽園、島の唄。
最後は、朗読、『身近な死』。宮沢和史は、歌う声以上に、話す声が良い。そんな風に思う私の心にすーっと入ってくる。身近な死に直面したときの、淡々とした状況説明に、個々の「誰か」に向けた思いと重なる。


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寄り道
宮沢和史 (2008年発売)

中央線
星のラブレター
遠い町で
沖縄に降る雪
白いハマナス
すばらしい日々
この広い世界で

楽園
島唄
身近な死(朗読)