街には川があって、人が暮らし、風景になる。
ロンドンのテムズ川、パリのセーヌ川、
フランクフルトのマイン川、ローマのテヴェレ川。
「エジプトはナイルの賜物」。
エジプトだけじゃない、ヨーロッパだけじゃない。
古代国家だけ、でもない。
川は生きるパワー(熱)と癒し(静寂)を同時にくれる。
ぼくは、旅に出るとまず、地図を広げて川へ向かう。
そこで、その街に「流れる」雰囲気を感じ取る。
アジア、南米、アフリカ。いつもそうだった。
中でも、このヴルタヴァ川の印象は濃い。
雨曇りの重い午後、湧き出た泉がやがて大河となって
プラハの街をゆったり流れる。
「モルダウ」。
小学生の頃だったか、音楽の時間に何度も何度も
聞かされたあのメロディー。
♪タラーララーララーララ、ターラーラー。
その川の前に来たのかと感慨も深い。
このモルダウはスメタナの交響詩「わが祖国」の第2曲。
ボヘミヤの山奥で湧き出た源泉が、少しずつ流れを増し、
時には激しくぶつかりながらも、雄大な大河となって
プラハを貫流するまで。
謳うように奏でた名曲だ、と思う
(あまりクラシックはわからないが)。
カレル橋という有名な橋の近く、このヴルタヴァ川(モルダウ)の
川沿いに「スメタナ博物館」があり、館内に「モルダウ」を流して
目の前のモルダウを見る。当時22歳だった僕は、ちょうど10年前、
小学校の音楽室で同じメロディーを聴きながら、思い浮かべてい
た光景が、なんとなく浮かんできて
「そうそう、これ、これ」、と。
想像上の光景に出会える、本当の風景が、
このヴルタヴァ川沿いにはある。