東京、表参道。東京メトロの出口を抜けると、人の波は何の躊躇もなく「表参道ヒルズ」へと向かう。その群れに逆らって進み、信号をいくつか超え、右折。細い住宅地のような所に入り込み、2本目を左折。「あれ?」と地図を見直す。今回の東京行きにはいくつか目当てがあったが、ここはその中でも大きな目的の一つ。迷子になって行けず、という最悪の事態だけは避けたかった。ので、路地の端にて地図参照。「だいたいこの辺りなんだけど」と首を傾げつつ、傾いた首を戻す拍子にパッと目の前に現れた。「ここや」と指さした先にあった「TARO」の文字。そう、表参道より徒歩8分なんて案内されている「岡本太郎記念館」に、ぼくは、徒歩20分近くもかけて到達した。
この記念館は、川崎にある美術館とは違う。あくまでも、1996年、84歳でこの世を去るまで岡本太郎氏本人が50年近く過ごした住宅兼アトリエなのだ。アムステルダムでいうところのレンブラントやアンネ・フランクの家、という感じだろうか。門構えも展示の仕方も大きさも量も入館者の数も広さも、絶妙に良かった。アトリエは静止展示が嘘のように空気中を動き回っているように思えたし、庭に置かれたオブジェの数々は、じ〜っと凝視したあとでしかめっ面になるような類の「芸術」ではない。常に、真っ直ぐに、笑い顔が吹き出す。中でも「母の塔」はぼくの中で別格のひとつ。
ぶらぶらと眺めていると、芸術は爆発しているし、キャンバスなんてとっくにはみ出している。色づかい、形、構図、この人の頭のなかでは、どんな様式で整理されているのだろうと不思議にさえ思う。「書」というか「イラスト」というか、つまり岡本太郎的漢字の世界もかいま見れた。バンザイしたような「楽」という文字。
結局、すべての作品に共通して言えることは、「楽しい、って素晴らしい」ということで、やっぱりぼくは岡本太郎が好きだということを再認識した。