「私の好きな料理店」


予想通りと予想外。
この絶妙なバランスが、私を魅了するか否かの重要な鍵となっている。例えば、帰り道に前を通るが一度も入ったことのない店。雑誌やテレビで紹介されて知った店。旅先で見かけた良さそうな店。

それらにはある程度の予想がつく。経験上、海外も含めた多くの町を旅し、日頃から、何かにつけて食べることを惜しまないエンゲル係数の高い私。だからかも知れない。

そんな経験は同時に、実際に行ってみないと分からない何かがあることも教える。
雰囲気、熱さ、会話。日々変わるものであるが、それらが定着すると色となる。

 (一) 私は、この「色」の中に予想通りの安心感を求める。

こうじゃないかな、と期待した通りを裏切らない力の前に、安堵することが多い。普段使いに可能であれば足繁く通うようにもなる。

しかし、だからと言って、それが「好きな料理店」かと問われれば、まだ足りない。そこに行けばあるという安定に加えて、求めるモノがあるのだ。

(二) 自分の予想を裏切ってくれる意外性、その店の底力を求める。

その意外性が私に新たな価値を与え、感動を覚えることができたなら、そこが真に私の好きな、という得意気な限定文句をつけて言い放つことができる。

難しいのはその裏切り方だ。甘いものを辛くされたのでは、まったく別のものになってしまい、それには類似を見つけてしまう。丁寧に、こだわりを持って創り出される「味」だけが、常に私を魅了する。

私の好きな料理店は、つまり、そこにいけば常にあることと、常にあることの延長線上に新たな何かがあること。そんな店に出会うと、独り占めしたくなる愛着も湧くのである。

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