舞台装置だろう黒くて大きな箱を3人がかりでワゴン車に積んでいる。若手の劇団員は、すぐにそうだと分かる。とてもシャープな体つきと顔つき。すり切れたトレーナーとジーパンだけど、「夢」とか「希望」とか「野望」とか「企み」とか、そういうものを内に秘めた鋭さがある。小さな劇場の前では、初めて座長として公演をはった男が、名刺を渡された編集者風の女と挨拶を交わしていた。「料金は、見てからお支払いください。まずは無料なので入場を!」という強気の看板を掲げる劇団もある。
アート、ブックス、パフォーマンス。この街に漂う、パワーのようなものが、ぼくは好きだ。
若い。いや、実際はそうでもないほど歳をとった人たちも、この街にいると若くなるのか。実年齢を超えて、ここは若い。だからか?服屋はどこも料金設定を抑えている。小田急線は上下とも忙しなく、街を「渡る」ために長い踏切待ちを過ぎると、昭和レトロな商店街の一角に面白い店があった。店名は忘れたが家紋をもじったデザイン性あふれる品々。日曜日しか店に来れないオーナー兼デザイナーの本職はサラリーマンだという。隣の店のおじさんが、店番をしてあげているとか。そういう粋なところなのだ。
スリープライスで「眼鏡」を売る『zoff』は、いまや日本中どこにでも店舗展開をするが、第一号店はここ下北沢店。来月から改装に入るらしい。眼鏡を買い換えようとしていたぼくは、コンタクトとほぼ同じ度数のものを購入。30分ほどでできあがると言うことで、近くにあった喫茶店へ。
コーヒー一杯900円!に驚きつつも、なんとも香りだかい一杯に満足。店内も落ち着いて、こりゃ、古き良きニッポンの……と思っていると、目の前にはニューヨークスタイルのデリやカフェが建ち並んで、激戦区だな、と思ってみたり。大きな時代の流れなんかに巻き込まれたりするのだろうか。なんとなく、身勝手に、そういうの、嫌だなと思う。1979年創業という喫茶店の、店内から眺める下北の街が、段々暗くなると人が増え、明かりが漏れ、より活気が出てくる。こういう若さ、こういうスタイル、こういう、下北らしさ。ぼくは今回3年ぶりに行ったが、仮に3年後、また行くときも、こうであって欲しいなと思う。
東京は、どこもかしこも、変わり過ぎているから、今。