世界自然遺産・知床半島の大自然。それは屋久島の如くむき出しで地球ってことを感じさせてくれるし、その地球が豊かなんだと改めて知らしめてくれる。一番は、「音」なんだと思う。柔らかく、心地よい「音」は、それがなんの音なのか知れず、声なのかどうかもあやふやだ。が、考え得る中で最も調和のとれた旋律のようで。まだ雪の残る知床五湖の、雪解けでぬかるんだ道の、強い日差しの汗ばむ中、ぼくはただただ歩く。森の中の、湖の畔。ヒグマの足跡がある、エゾシカの親子がいる、透き通った湖は、底まで見えて、中で枝が絡まっている。ふと、魚の死骸が浮いていたりもする。自然だ。木道が張り巡らされているのは、自然を守るため。それをもって「自然じゃない」というほど大人げなくもない。ただ水芭蕉、湖面にリフレクトする雪をかぶった知床連山。美しい。深呼吸したくなるほど、美しかった。そして気持ちよかった。
ウトロのホテル街から車で向かう山道。知床峠はまだ開通されていなかった。その奥。くねくね曲がる道すがら、知床連山の美しさは、光を浴びて燦々であり、もうそれは理想郷。連休とはいえ、間の平日ということもあって、いや、まだ知床には少々早すぎる早春ゆえ?人も車も少なくて、ちょうどよかった。
知床半島をクルーズで「表面」だけ見て、その岩壁に戦き、ヒグマを探しては大はしゃぎするのも、もちろんいい。が、ぼくは、この足で、スニーカーを泥だらけにしつつ、ゆっくりトレイルする。湖畔にくれば遠くを眺め、意味無く伸びしたり、大きく息を吹き出したり。あれこれ考えず、ただ歩き、リフレッシュできるこの五湖が、なんとも心地よかった。