2010年2月、マグニチュード8.8の大地震に襲われたチリで、先住民族のマプチェ族が言った言葉。「自然が一番安定している」。(朝日新聞2010年3月17日朝刊より)
これは、不安定で不定期の自然の猛威と共に生きてきた民族の、「自然回帰」的な言葉だ。マプチェ族が住むのはチリの中南部テムコ。そこには、この民族の伝統家屋が多い。今回の大地震だけではなく、1960年の大地震の時も被害は少なかったという。
マプチェ族は伝統的に地面にくいを打ち込んではりを組んだだけの木造家屋に暮らす。屋根は藁葺きで、地震の揺れを吸収し、床をセメントなどで固めないので倒壊しにくい。家の床は土間のまま、ということが多い。レンガやセメントを使った家が軒並み地震で倒壊する中で被害が少なかったのは、「不自然に固めてしまわない」ことであり、出来る限り「自然」のままにするのが一番安定していると。
地震の多い地域で昔から暮らしてきたこの民族は、地震を暮らしの一部として受け止め、それと調和するように暮らしてきたという。
耐震構造も必要に迫られているが、コンクリートをどれだけ高く積み上げて「堤防」にしても、自然の猛威はいとも簡単に乗り越えてしまう。そんな脅威を何度も経験してきたぼくらは、やっぱり、帰るところは「自然」なのかな、と思ったりもする。