そろそろ、かりゆし
かりゆし58 (2007年発売)

電照菊
手と手
恋唄
愛と呼ぶ
はじまりの前
バイバイバイ
少年
ヒート君
きっと今夜だろう
オリオンビーチ
マゼラン海峡
南に舵を取れ
アンマー(アコースティックVer.)

「さぁその手と手を」

手をつなごう、と歌う。寄り添って、弱いけど、孤独だけど、歩き続ける。
2007年に発売されたこのアルバムは、かりゆし58のデビューアルバム。ミニアルバムのリリースを続け、シングルで様子見をして、満を持したようなこのアルバムは、全ての曲が「太く、濃い」。そして、どこかで聞いたようなメロディが、懐かしささえ感じさせる。ちょっと舌足らずなボーカルの「サ行」も、聞き続けるとクセに変わり、なんとも良い味になるから不思議だ。

ここ最近デビューしたバンドの中では、一番好きだし、このアルバムはその中でもすごくいい。「アンマー」は無条件にやられる曲だなぁと……。

全13曲、どれも「前向き」だし、「これからだよ」という強いメッセージがある。それを嫌味に思えないのはなんだろう。ストレート過ぎるからかな。ここまで行くと、的なものも感じる。


「大切な人がいつか 夜道に迷うことなく 帰りつけるように」
『電照菊』は、別れゆくアナタがいつか帰ってくるとき、何もない田舎町で愛し合ったことをすぐに思い出せるように。そんな淡い気持ちを歌う。忍び寄る別れを気づかないふりしていたのに、「アナタのその小さな手を強く強く握った」あの日から……。

こぼれ落ちた笑顔も涙も、拾い集めて幸せと呼ぼう。『手と手』は、このリズムで歌われるからいいんだなぁ、と思う。
「君が笑ってくれるのなら ただそれだけで僕は幸せ
信じられないかもしれない だけど本当の事さ
人を好きになるというのは ただそれだけで素晴らしい事
だから僕はもう幸せだ 次は君の番だよ」

『恋唄』は、切ない。裸足のまま、初恋を駆け抜けたというサビも、そこに至るまでの歌詞も。「未来はあまりにも頼りなく震えていた 言葉は無力で 心を伝えられないまま 2人の間を飛び交って やがて消えていく」

「二人を結ぶもの」「揺るぎなく強い想い」「悲しい時 淋しい時 僕らの心が求めるものを」…『愛と呼ぶ』。

『はじまりの前』は実にいい。スタートを切る前というより、無意識に生まれて始まった「人生」の「リ・スタート」。そういう唄だ。
「ダラダラ過ごして来たくせに 文句ばかり並べてる僕
気付いて恥ずかしくなったよ 神様は意外と平等だ
そうだ何かを始めよう そうだ小さな一歩でも
未来は今の向こう側に つまり明日は今日次第なんだな」

『バイバイ』は、明日また会う人も、遠くへ行ってしまう人も、バイバイという感謝を歌う。また、次があるからと。
「今日僕と 初めて喋った人 出会いをありがとう
今日僕に 別れを告げた人 思い出をありがとう」

「生きる事は簡単だ だけどひどく難しい
そしてとても面白い 全ては君のものだ」
『少年』は、君の人生は、ぜんぶ君のもの、とストレートに歌う。

「人って楽しいな 人って面白いな 人ってかっこいいな 人ってやっぱいいな HEY HEY HE HEY HEY」(『ヒート君』)、「いつか僕が土に還る その時隣で見守って欲しいのは君だと 君しかいないと なんて手紙を読んで花嫁にキスする」、君とそうやって、そんな願いが叶うなら、そのきっかけになるのは『きっと 今夜だろう』、「一生泣き笑い 悲しみをくぐり抜ける そのスリルを楽しんで行こうぜ」(『オリオンビーチ』)、遙かなる旅路の、その終わり、ぼくらは何を思うだろうかと投げかかける『マゼラン海峡』、それに繋がるように『南に舵を取れ』は続く。
「嗚呼疲れ果てて もう道は暗く
“どうにもならない”そんな時が来るならば
嗚呼笑ってやれ「私はここに生きた」と
最後の時ではなく最高の瞬間だと」


そして、最後、アコースティックバージョンの『アンマー』が始まる。
アンマー、沖縄の方言で「母ちゃん」。
「我が家はあの頃からやはり 裕福な方ではなく
友達のオモチャや自転車を羨ましがってばかり
少し困った顔で「ごめんね」と繰り返す母親のとなりで
いつまでもいつまでも泣いたのを覚えてます

勝手気ままに遊びまわる本当にロクでもない私が
真夜中の静けさの中 忍び足で家に帰ったときも
狭い食卓の上には 茶碗が並べられていました

アンマーよ アナタは私の全てを許し全てを信じ全てを包み込んで……

すべてを包み込むような愛がそこにはありました
アナタのもとに生まれ落ちたことは こんなにも幸せだった
今頃ようやく気付きました こんな馬鹿な私だから」

繰り返し、繰り返し、この『アンマー』を聞きながら、なんだろう、最後まで不思議な気持ちになる。
素直になる、っていうのに近いかな。まっすぐぶつけてくるこのアルバムのメッセージ、声、懐かしいリズム。その中で、思い出すように、そう素直になる。



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