スパ
2007年01月21日
温泉じゃなくて、スパ。その違いは何か。温泉を辞書で引くと、spaなんてザラで、じゃ、同じじゃん。ということになるかも知れないが、そこはピザとピッツァが違う感覚で話しを進めたい。

まず、僕は温泉が大好きである。湯船に10分以上浸かっていられないくせに、なぜ好きなのか。と、いうと実は僕は本当は、温泉に浸かりにいってるわけではない。湯治ではない、馬でもない。人参が嫌いというレベルでそれは真実。なら、なぜくそ寒い中、次の日から仕事だというのに日曜の夜中に戻るような旅程で無理矢理温泉行きをねじ込むのか。それは……、宿だの料理だの、いろいろある。景色、というのも一つ大きい。だけど突き詰めて考えていくと、日本人の性質に、これほどにまでマッチした「休暇」がないからである。オーベルジュ的要素をもった温泉宿は、もう拝みたくなるほど布団が気持ち良い。普段食べない朝ご飯が、なぜだか、極上に旨い。カニもふぐも飛騨牛も、全部うまい。のが、温泉だ。とはいえ、歳を重ねると好きの類が変わっていき、例えば苦かったコーヒーやビールなんかが、無くてはならないものとなるし、冷や奴なんて、本気で美味しいと思って食べてる人はいるのだろうかと傾げていたが、今、僕は、本気で美味しいと思っている。

つまり、「風呂に入る」ということが気持ちよく感じられる歳?なのか。あくまで僕の場合。

宿に到着して、取りあえず夕食までに内風呂へ、食後、露店で星空を眺めたりしながら、元気な時は寝る前にもうひとっ風呂、デレデレの浴衣を整えつつ向かう。で、頭がいくらガンガン痛くても、朝風呂は爽快だ。へっへっへ、ぬくごはんと海苔とみそ汁と。朝ご飯が待っていると想像するだけで、顔に当たる寒風も心地よい。ほんとに、気持ちがいい。無意味やたらとお湯をかけてみる自分の腕がすべすべになったように思えて、「効くわぁ〜」なんて言ってしまったり。

スパ。最近では東京や横浜、神戸に福岡なんかでも多い。フラワーバスやラベンダーのスチームバス。木々とダブルベッドとアフタヌーン・ティー。これがスパだ、僕の中で。浸かるというより、蒸気を浴びたり、ブクブクジェットで腰やお腹を刺激したり。とにかく、素っ裸で浸かって頭にタオルなんて絶対に乗せない。そんなスパ。子供ならプールを英語でいうとスパ!なんて、とんでもないことを本気で言い出すかも知れない。

イメージ的に近いのが、スパ・リゾート。海や山など、空気の新鮮なところにいって、エステだの、フラワー・・・だのを染みこませる。アーバンリゾートという言葉もある。これがもてはやされ出して久しい。2日しかない週末を、わざわざ移動時間に半分をとられるぐらいなら、都心にあるホテルに泊まって最高級の「安らぎ」を得たい。そんな人たちの需要がそれだ。

今さら言うまでもなく、日本のような温泉スタイルは希だ。素っ裸で湯船に浸かるなど、海外旅行にでかけて本気でやってしまったら、逮捕されかねない。それがいくら風呂=バスの語源になったイギリスのバースでも。台湾や中国だって、温泉マークをみつけて門を潜っても、水着はいる。
が、ホット・スプリング、つまり湧き出る温水に、その効力に癒されていたのは欧州をはじめ万国共通で、その歴史も長い。先述のバースや、スイス、ドイツなどなど。北欧にいくとサウナになるが。世界の有名ビーチで、温泉が出てるところなんてことも珍しくはない。南極にあるペンドゥラム・コーブは、正しくそんなビーチで、水着で浸かっている。不思議とあまり泳がない。

何が言いたいかというと、温泉にある要素を、そのままスパに求めるのは間違いで、だから、「海外旅行に行きたいんですけど」と旅行会社のカウンターに座った人が、開口一番「のんびりできる温泉みたいなところ」と言い出すと閉口するのである。日本国内の観光で温泉というファクターを持たずに成功するのは京都ぐらいで、間違いなく重要要素である。なにかしらのそういう「鉱物・好物」がいる。いくら特産品として美味しいメロンがあろうが、牛肉があろうが、やはり「湯」がいる。食と湯は、エリアごと同一条件で与えられた観光資源、その中で生き残るために、数年前から日本では有名建築家が設計するデザイン性を重視した「お宿」が続々と誕生している。間接照明で、30cmぐらいのロウ・ベッド、サイズはツインでも一つ一つがセミダブル。小さくてもプライベート露天風呂があったり、夜も朝も部屋で食事ができればなお最高。それだけで、一泊の値段が5000円高くても、取れるならそこにする。という傾向。こんなの、、、日本だけだろうな、と思っていたら、最近ではヨーロッパでその傾向が強いとか。(クーリエ・ジャポン02.01号参照)

ミュージアムのデザインを一通りやり尽くした世界の建築デザイナーは、今度はスパの設計に取りかかっている。屋外や郊外ホテルの室内、どこか近未来的な斬新なものから、もともと朽ちていた「元スパ」の遺跡のような場所を、モダンに造り替えたり。そうやって、旅人を寄せ始めているらしい。わざわざサンバーンしてヒリヒリしてる場合でもないでしょうというのが、理由かもしれない。

ということは、「温水・温泉」が人を惹き付けるのは、それはもう世界共通ということになる。湯だったり蒸気だったりはするものの、エステなど「癒し」の要素に加え、リゾートホテルの「宿」的要素も加味している。

そうか、、、。温泉とスパの違いは水着着用か否かとして、共通項、つまり人を惹き付けるのは何かが分かった気がする。非日常。これかな。アーバンリゾートにしてもそうだし。

もし、世界でも、日本と同じように「湯+床+食」の三点セットがホリデーの絶対要素になったら、これは日本発信型の新しい波が起こせる。なにしろ、そういう分野においては、国内でさんざんやりつくしているのだから。仙台の宿と鹿児島の宿では趣が違う。が、両方いい。そんな「趣」をもったスパが、スイスやシリヤやストックホルムやシアトルなんかにできれば、それはひとつ、あったまれる。

あ〜、それにしても近ごろ冷える。



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