小説
Stories
These are my works off fiction.
All right SHOGO SUZUKI(鈴木正吾) reserved.
「泳ぐ庭」
25歳、フリーター。
1日7時間、週6日働いて、手取りが月で16万8千円。
恭太は、世の中をうまく泳げずにいた。
まだ何かある、きっと自分の進むべき道が見つかる、
そう信じて待っている歳じゃないぞ。
慶一のこの言葉は、優柔不断だが頑固で、
なかなか一歩を踏み出せなかった恭太の心を揺さぶった。
世の中という「プール」の中を泳ぐ人達を、
ただプールサイドから眺める恭太の側には、
いつも恋人・加美がいた。
29歳の加美の存在は、恭太に
「まだ時間がある」ことを教え、
だから安心することができた。
ずっと、横にいてくれると思っていた。
しかし、訪れる加美との別れ。
何もかもうまくいかない連鎖の中で
迎えた加美との別れは、
淀んでいた恭太の人生をかき混ぜる序章だった。
大学を卒業して世界中を放浪する友人・大志は結婚を決めた、
そして、健次郎のいる京都に住んでいた祖母が他界した。
その祖母の家を改築して、
恭太のレストランを出店しないかと提案されるまで
そう時間はかからなかった。
大河が直角に曲がるドナウベント。
恭太が迎える人生の岐路、
スタート地点を、
そこに至るまでの淀んだ日々からえがく。
「みんな一斉に
『よーい、ドン』する」類のモノではないでしょ、
人生って。
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「我森プレイ」
我森(がもり)修平を取り巻く人たちの「プレイ」は、
誰にとっても〈欠如〉を埋めるパーツだった。
そのパーツを埋めようとする
五人の登場人物と、我森の関係をえがく。
陽人(あきと)は月だった。
光り輝く太陽が必要だった。我森という太陽の側で、
いつもその〈光〉を受けて暮らしていた。
しかし、陽人が愛した利香を我森に奪われた時、
二人のプレイは終わったかに思えたが。
宏美(ひろみ)は、男の体を欲していた。
結婚して、マンションも買った。仕事もある。
しかし、彼女には夫との性生活がなかった。セックスレス。
宏美は、〈それ〉を埋めるためだけに、我森とプレイする。
それは、しっかりと線引きされた、
割り切った関係のはずだったが。
綿貫(わたぬき)は、思春期の頃から空想の中にいた。
父親の会社で専務となり、金を持つようになる。
それまで、空想だけに留めていた欲求を金で具現化し始めた。
歪んだ欲求。我森とのプレイは、その欲求の〈はけ口〉として、
利用するだけのはずだったが。
乾(いぬい)の場合は少し違う。
教師の仕事も住む所も捨て、路上生活を送っていた。
婚約破棄、学校組織からの締め出し。
これまでの人生で味わった絶望も含め、すべてを捨てた。
我森とのプレイは、そんな捨てたはずの〈自分〉を
取り戻すきっかけとなり。
そして、マミ。我森とは恋人同士だった。
マミの嘘いつわりない真っ直ぐな気持ちと、
それを受け止めることができない我森。
彼に必要なのは、マミの〈金〉だけだったはずが。
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「ぼくの何か」
学校という「社会」と接し、摩擦で角がとれ、
丸くなって「止まる」様を描いた作品。
カケルは、
一人だけで完結する世界で生きていた。
本とマックが知識を与えてくれ、勉強することで周りと差別化し、
触れあうことのないまま自分の存在価値を確立させていった。
気の合うクラスメイトも作れないまま、「大人」となったカケルは、
だから失敗することになる。
頭で考え、一人で導き出した解答の無力さ。
それを痛いほど知らされることになる
教師になってからの失敗。
その経験から学んだことは、
「歯車でも埃でも、機械の中で邪魔にならない歯車なら、
どんな風でもうまく乗っていける埃ならそれでかまわない」
ということだった。
母の死を受け、継母と家族を築こうとする父。
伝統校の華の二区で棄権してしまったエース高橋。
自分を変えたいと世界へ飛び出した菜月かほる。
同性を愛してしまい、思い悩む中学生・町田。
彼らと触れ合う中で、
カケルは受け取った覚えのない襷が、
実は、しっかりと胸にかけられていたことにようやく気づく。
普通じゃないと思っている自分が、
どんどん殻の中へと閉じこもっていくという、
誰にでも起こりうることは、人との触れ合いの中で取り除ける。
誰もが、胸には「前」の人から受け取った襷をかけていること。
一人で生きて行くには、限界があるということ。
普通じゃないことに負けて、
自分自身を誤魔化してはいけないと言うこと。
青信号に変わったカケルの人生が、ようやく動き始めた。
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「有り」
(冒頭)
孫の有(あり)が先日、いちご大福を持ってきてくれた。
ああ、なるほど、私もそんな歳か、と思った。
私が祖母に、
おばあちゃんなんだからいちご大福が嬉しいだろうな、と思って、
お小遣いで買って、渡したら、
笑って、すごく喜んでくれたことを思い出し、
ふと、私は有に、
ちゃんと笑って、すごく喜べただろうか、と思い返してみる。
ずっと続く。延々と続いているような、果てしない道の先にある駅。
そこへ向かう人たちの後ろ姿をぼんやり眺めている。
走っていく若いサラリーマン。
後ろから、白いシャツが、ちょっとだけ出ている。
みんな慌てる朝、間に合いますように。
この駅は、都心を走る地下鉄が乗り入れ、都心アクセスが良くなると、
一人暮らしのサラリーマンが増えた。
その一人暮らしが結婚するようになって、
家族連れも増えた。
これまでの田んぼや畑が売却され、マンションが増えた。
高層マンションは、住民からの反対運動が起こるため、
もっぱら低層で、土地に余裕があるから、ゆったりしたマンションが多い。
点在する低層マンションと、昔からある民家。
そして、民家を改築して、貸し出す賃貸スペース。
この町も、ここ二十年で、ずいぶん変わった。
一人暮らしのサラリーマンの他にも、
画家や写真家といった芸術家も多く住んでいる。
新しい住民のために、また新しい人がやって来て、
ベーカリーやカフェをオープンさせた。
郊外にある、おしゃれエリア。
この町は、そんな風にしてテレビで紹介されることもある。
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