今(2019年12月)から9年前、2010年の夏の終わりから秋にかけての時期、私は恵比寿ガーデンプレイスで行われていた麦酒祭(だっと思う)に出かけ、そこで見たのを覚えている。ステージで歌う高橋優。彼のおっかけのような女性が、控えめに手拍子をし、私はその方の隣で、「誰、誰?」と言っていたような。8月6日晴れ、きっと世界の共通言語は英語じゃなくて、笑顔だと思う。そんな風に数曲聞かせてくれた。直感として、好きだな、と思った。声が特に好きだった。一緒に行っていた妻が、「あ、この曲、知ってる、東京メトロのCM」というのを聞いても、私は知らなかったが。時を経て、高橋優というシンガーを認識し、生まれてきた息子は「あちたは、きっと、いいひになる〜」と口ずさむまでになった。
とにかく、声とメロディが気持ちよく、言葉にパンチ力がある。
昔、ロシアの作家の作品が長いのは、冬が長くて寒くてやることがないから、というギャグを聞いて、なんとなく笑っていたが、秋田県出身の彼もまた、言葉(歌詞)が多い。歌いたいことがあふれているんだろうな、と思いながら、歌詞を眺めながら聞いていると、尾崎豊を思い出す(尾崎のようにカリスマ性はないが、それは時代のせいかもしれない)。
気づけば、一番繰り返して聞いているのが、このファーストアルバムだった。速い曲、強い曲、そして、『十七歳の地図』に「OH MY LITTLE GIRL」が要ったように、「虹と記念日」がやさしくしみる。
1曲目、「終焉のディープキス」では、「僕たちが探し求めてるもんは 愛し合える絆ってやつか? それが引き裂かれる快楽か?」と隣の芝生の蒼さを眺めるようなスピーディーな曲で始める。続いて名曲「素晴らしき日常」。もうこれは、初めから歌詞にやられる。ロストジェネレーション、失われた世代にはささる。
麗しき国に生まれすこやかに育んで
この上ない程の幸せを僕は知ってて
それでいても尚湧いてくる
欲望の数々
「満たされない」「物足りない」
何かに腹が立つ
3曲目に受け入れやすいメロディで「福笑い」が続く。これを挟むことで、アルバムとしてのバランスが取れるなぁ、と個人的には思う。「時のスピードに遅れまいと 息を切らす人々の中で 花のようにいつも僕に微笑む 君を忘れはしない」という「メロディ」は、やさしく、そして次の「希望の歌」では曲調を変えて。「ハラワタ煮えくり返るときほど嫌って 表に出すこと無く ただ才能を研ぎすましている」「願いは叶う 時代は変わる 今がどれほど苦しくても」。
「靴紐」で気持ちよく揺られると、「サンドイッチ」で、え!?となる。ええやん、と思いながら、THE BOOMの「夜道」を思い出す。ここまで来たら、もうロックオン。完全に彼のリズムの中でくるくると回される。「ほんとのきもち」「虹の記念日」と続くラインは、両肩をつかんで、「なっ?」と言われている気持ちで、その両手をぐんぐん振って肩を揺らされる「現実という名の怪物と戦う者たち」へ。これを堂々と歌ってしまえるあたり、一周回ってすごい。
で、最後。この「少年であれ」があるからアルバムがしまる。個人的に好きな作品になるのも、この曲の存在が大きい。大切な時、この曲をよく思い出す。「僕なんか生まれなきゃよかったの?」から始まり、どんどん理想郷へと高揚していく。その理想は、脱力、無理するなという現実的なもので。
心を休めることすら
許してもらえなかったんだな
もう少し遊べ
抜くとこは抜いていけ
楽しいことだけを選べ
〜〜〜〜〜
抱えきれない痛みは
抱えなくても別にいい
無理に苦しむ必要がどこにある?
誰しも気ままで元々
〜〜〜〜〜
分からない悩みならば
分からなくて別にいい
急がば回れ 知ったかぶりするな
誰しも未完の賜物
生まれてきた意味ならば
後付けでも素晴らしい
〜〜〜〜〜
羽ばたける鳥のように
海を跳ねる魚のように
この星の上 誰よりも自由に
愛する少年であれ
→ MusicAに戻る