竹原ピストルこと竹原和生が、〈禅宗において、禅に似て非なる邪禅のこと〉を意味する野狐禅(やこぜん)というデュオを解散したのが2009年。それから年間約300本のライブ活動を通して、ソロとして5年、リリースしたのがこのアルバム。竹原ピストルの言葉は強く鋭く、温度があって心に響く。何より、弾き語り、フォークというのが素晴らしい。そして、歌詞が好きだ。それは、地べたにしっかりと立っている言葉たちだからだ。
このアルバムが、一番好きなのは、そんな竹原ピストルの、なのにJ-POP作品だからだ。ベースラインが跳ね、軽やかに流れるメロディもある。それが、ライブ音源で聞く「カモメ」とは、また違った「カモメ」を聞かせてくれる(例えば)。
一曲目、「RAIN」。ドラゴンアッシュがマイルドにヒット曲を連発されていたころのような始まりに思えた(個人的に)曲は、しかし、「このまま土足でおじゃましていいかい?/裸足の方が汚れているんだ」から始まる。竹原だ、ピストルだ。
やむにやまれず ふってふられて…
RAIN
二曲目、「俺のアディダス〜人としての志〜」。これはアルバムバージョン。松本人志に捧げた歌か。「俺のアディダス。こいつはここだけの話。/俺のアディダス。こいつはあの人への誓いの証。/俺のアディダス。俺なりの人としての志。/俺のアディダス。俺のアディダス」
ホンモノぶっ倒す、極上のバッタモン。
何か文句あるか?世の中、勝った者勝ちだったろ?
三曲目、「東京一年生」。初めて聞いたとき、上京ソングとしては一番好きかも、と思った歌。優しく、諭すように、語る竹原の声が光る一曲だ。「お水がおいしい朝/お水だけがおいしい朝」「私の長所は 過去はすべて汚点だと思えるところ/私の短所は 過去はすべて汚点だと思ってしまうところ」「ピカピカのギターケースをぶら下げてそわそわと/あれは東京一年生かな?/例えば人ごみが息苦しかったら まずは自分が消えることだよ/さもなくば 窒息するまで歌いきるんだ」
暮らしづらいのは街のせいじゃない
暮らしづらいのは大丈夫 夢があるからさ
がんばれがんばれ!!東京一年生!!
四曲目、「ばかやろ。」。これは立ち上がりから、あれ?あれあれあれ?と、フツーじゃん、と思いながら聞いていると、さすが、コロッと転調してグッとくる曲に仕上がっている。
そーゆーこと 考えなくてすむんだ
君とこうしておでことおでこをくっつけているときは
そーゆーこと 考えなくてすむんだ。。ってだからお前
そーゆーとこだっつーのばかやろ。
五曲目、「どっちみち どっちもどっちさ」。言葉遊びから芯をついてくる竹原ピストルらしい一曲。「クツのカカトがナナメに欠けている/だからぼくはナナメにしか歩けない/ぼくはナナメにしか歩けない/だからクツのカカトがナナメに欠ける」
逆立ちをしたまま
逆さに話そう
逆立ちをしたまま
逆さに踊ろう
どっちみち どっちもどっちさ
六曲目、「LIVE IN 和歌山」。誰か、特定の人に向けた言葉(歌詞)は、とても個人的だけど、なぜか万民に届く。その最たるものがこの一曲だ。
薬づけでも生きろ
どうせ人間 誰もがなんらかづけで生きているんだ 大差ねぇよ
七曲目、「ちぇっく!」。「挫折語って1杯2杯/言い訳語って3杯4杯/理想を語って5杯6杯/現状語って完敗の乾杯」。本当、ラッパーだな、すごいリリックだな、と聞きながら感心する。これだけの歌詞をこの力強い声で歌われると、こちらが完敗だ。「一生で約5億回/限りあるこの胸の呼吸/一息たりとも無駄にしてたまるか/空気は吸うだけ空気は読まない/一生で約20億回/限りあるこの胸の鼓動/一拍たりとも無駄にしてたまるか/他人のビートに合わせてたまるか」
ちぇっく ちぇっくって ちぇっくばっかり
チェック わんつーって ず〜っとちぇっく
ちぇっく ちぇっくって ちぇっくばっかり
チェック わんつー おい とっととやれよ
八曲目、「テイク イット イージー」。焦り、右往左往、金欠、諸々とバタバタドタドタせずに、Take it easy、という曲を、竹原ピストルが書くとこうなるか、と思わせる。「追い越し車線にしゃしゃり出ては引っこんで、むやみな蛇行があの街とこの街をぬい合わせる。あー、いっそあいつに金借りようかな。でも倍返しにしろって言われそうだから、やっぱりやめておくか。」
あさっての方向にとんでった流れ星ならば、
二晩ゆっくり眠ってからつかまえにいくさ。
九曲目、「カウント10」。これぞ!竹原ソング。声、音、歌詞が見事に合致して、すごくいい。
ダウン!から カウント1・2・3・4・5・6・7・8・9までは、
悲しいかな、神様の類に問答無用で数えられてしまうものなのかもしれない。
だけど、カウント10だけは、自分の諦めが数えるものだ。
ぼくはどんなに打ちのめされようとも、絶対にカウント10を数えない。
十曲目、「カモメ」。名曲だ、野狐禅の時代から歌われる曲を竹原ピストルが再び録音する。それだけでも、この曲の大切さがわかる。中島みゆきのような世界を武骨に歌い上げて素晴らしい。いや、本当に素晴らしい。
僕はもう疲れきってしまってね
部屋のカーテンを全部閉めきったんだよ
僕はもう疲れきってしまってね
ダンボールの箱の中に閉じこもったんだよ
青を塗って
白を塗って
一息ついてから最後に僕の気持ちを塗った
空の絵を描いていたつもりが
海みたいになってしまって
開き直ってカモメを描いた
君との思い出を書いて
君への感謝の気持ちを書いて
一息ついてから最後に僕の本当の気持ちを書いた
遺書を書いたつもりが
ラブレターみたいになってしまって
丁寧に折り畳んで君に渡した
十一曲目、「わたしのしごと」。シャボン玉を割るようなことなのに、わざわざアイスピックをつかって、たいそうにみせるのが?わたしのしごとだと言いたいのか、だけど、しごとは、歌うことは、結局、「急かすことに疲れ果て/急かされることに疲れ果て/とうとう自分の影にさえ/そっと道をゆずる帰り道」。
わたしのしごと
そもそも何もなかったことを
あらためて何もなかったことにすること わたしのしごと
最後は、「マイメン」。全国を歌って回る彼と、彼の最高のメンバーを軽やかに歌う。
当たり前のやり口で
当たり前をぶっこわせ!!
常識的なやり口で
常識をぶっこわせ!!
力強く、泥臭く、男臭い彼の声を、きれいにラッピングした曲たちが、だからこそJ-POPの中で異彩をはなっているかのようなこのアルバムを聞き終えて、ふと、聞きたくなる、彼の魂の声。
2018年リリースのアルバム『GOOD LUCK TRACK』に収録されている「狼煙(朗読) 〜Live at京都大作戦 2017〜」。彼が、朗読するとこうなる。そして、中からガンガン打たれる。
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