今月11日、西アフリカのリベリアで、アフリカ初となる女性大統領が誕生した。エレン・ジョンソン・サーリーフ(Ellen Johnson Sirleaf)、67歳。長びく内戦で荒れ果てた国の再建を担う。彼女は、独裁政権に抵抗を続け、反政府活動者として獄中生活も強いられたが、主張を変えることはなく、「鉄の女」と呼ばれるようになった。
ドイツでも、史上初となる女性首相が誕生する見通しだ。アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)、51歳。彼女は東ドイツ出身者としても初の首相となる。先の選挙では前評判通りの得票が得られず、大連立を組んでの多難の船出となるが、そのなかで彼女がどう導くのか。コール元首相に引っ張り上げられた「お嬢ちゃん」から、めきめきと頭角を現し、気がつけば、彼女も立派な「鉄の女」になっていた。
女性の指導者=鉄の女。こんなことが言われ始めたのは、イギリスで女性として初めて首相をつとめたマーガレット・ヒルダ・サッチャー(Baroness
Margaret Hilda Thatcher)からだ。彼女は、まさに「鉄」の如く強い意志と、叩けば鋭い音で響き渡る指導力を見せた。電話、ガス、空港、航空会社という国有企業を次々と民営化し、それまで低迷していたイギリス経済の再建に成功する。この民営化の流れは世界的に波及し、金融に関してもビッグバンという言葉が盛んに言われるようになった。
ふと、思う。「強い女」と「鉄の女」は違うのだろうと。どこかで、男のようなとか、男と肩を並べて張り合えるとか、そういうイメージで「鉄の女」を使い、それが「強い女」のイメージになっているのではないかと危惧する。例えば、「強い女」はたくさんいる。歯に衣着せぬ発言で毎回注目される田中真紀子議員。彼女は「強い女」だ。では、彼女が日本の首相になり得るのか。それは分からない、成り得るかもしれないし、なれないかもしれない。それは、彼女がまだ単に「強い女」でしかないからだ。飛び出しては外野から意見を述べ、中に飛び込んでも協調できずに終わってしまう。指導者(トップ)は、女・男の境などなく、しなやかで、一本通っており、周りの磁石を惹きつける、まさしくそんな鉄でなければならない。
先に述べたリベリアのサーリーフ大統領やドイツのメルケル首相には、しなやかで一本通った手腕を期待する。女性・男性を殊に取り立てて注目する必要はないが、初めてという開拓者、扉を開いたという意味では、「女性」指導者としての期待と価値は大きい。ただ、11年間も英国を引っ張ったサッチャーのような「鉄の女」になることを期待するわけではない。女性の指導者を十把一絡げに「鉄」だといわなくても、時代は流れ、鉄よりも軽くて強い「チタン」や、錆びない「ステンレス」が重宝されるように、それぞれの個性と持ち味で、「チタンの女」や「ステンレスの女」として、活躍して欲しい。
サーリーフ大統領は言う、「アフリカの女性には正直で繊細で、自分のすることに責任を持つという、男性にはない特質がある。今こそ、その力を生かす時だ(朝日新聞より)」と。男性と同じことが出来うる強い女なのではなく、女性にしかできない特質を生かす、もっといえば、サーリーフ氏しか出来ない、サーリーフ氏だからこそ出来得る、そんな「女の政治」を期待したい。アフリカは、世界のHIV感染者の7割を抱え、内戦が続く地域が多く、貧困や児童労働などの問題を数多く抱えている。まだまだ「男」と「女」の壁や、「身分」などという枠で仕切られているところが多い。そんな全てを、ポーンッと突き抜けるぐらいの勢いと軽やかさで、「良い」国づくりを願いたい。そしていつの日か、「女」なんて特に付けなくても、当たり前になる共同参画時代が実現し、大手銀行の取締役に女性がいるか否かなどの統計を新聞記事にするまでもない男女の社会が望ましい。
僕も、今めざしているこの道で、「鉄」の人になれるよう…、願うばかりになく、動こうと思う。
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