世界のつながり
2010年10月31日
TPPという文字を最近、新聞でよく見る。Trans-Pacific Prtnership(環太平洋パートナーシップ協定)だ。アメリカ、ペルー、チリ、ニュージーランド、オーストラリア、マレーシア、シンガポール、ベトナムなど太平洋を取り囲む国々による人・モノ・カネの自由な行き来。簡単に言ってしまうと、関税を取っ払って輸出入を自由化しようというものだ。工業・電化製品が輸出しやすい日本はこれに参加したいところだが、逆に、外国からの安い農作物に国内農家の経営悪化が懸念され、こたえを先延ばしにしている。
コメの自由化。これはここ数十年来の未解決問題だ。「あくまでも国益」を最優先する日本は、コメの関税が撤廃できない。そのガードを取っ払うと、スムーズな反面、いわば空洞化のようなもろい一面がでてくるからだ。グローバル化の中で、日本人の食生活は自給率が下がる一方。それはそれでいいじゃないか。日本の得意なところだけを伸ばせば。そんな考え方は机上ではすばらしいが、現実問題、(話は少し違うが)レアアースの輸出禁止のように、「相手」がNOと言い出すとどうしようもなくなるのだ。自分の国でしっかりとした産業が育つこと。それが、何においても一番大切なのだから、このTPPも悩みが多いというか。
と、今日は、そのことを書こうとしているのではない。
昨今、パートナーシップや協定、協力会議や連合など、地域や国家間のユニオンが生まれ、そのユニオンとユニオンをトランスして繋ぐ協定などが増えてきている。一つの国家が、何かのユニオンに加盟し、そのユニオン同士の繋がりで世界への門戸を開く。それが、世界地図をうまい具合に塗りつぶしていけば、結果、国連のような「世界連合」ができ、国連よりももっと強力なつながりが出来るのではないかと、そんなことを思うのだ。
世界大戦があり、当時の強国がつくったハコ(国連)に、独立国が加盟していったトップダウンの形ではなく、隣国や周辺諸国との結びつきが、どんどん広がって一つになる。身近なところから強固に結びついて、それが結果大きな世界へと。下から上。分かりやすく、そう表現すればいいのかもしれない。そうやって出来た世界連合は、きっと今の国連よりも現実的なはずだ。5つの国が特権を握り、世界中を動かそうとするのは、G8、つまり8つの国で経済を話してもはじまらないといってG20になった動きに似ている。
私は日本人で、アジア人で、つまりは地球人。その広がりに近いともいえるだろう。人間が宇宙に飛び出してから、「地球人」という考え方が広がったと聞いたことがある。宇宙飛行士の毛利さんは「宇宙から見ていると、地球が一つであることを実感する。日本だけを見ようと思ってもすぐに隣の国になってしまう。決して一つだけの国を見ることはできない。本当に、地球上に国境がないことを実感した」と感想を述べている。
地球はもとから一つで、それを細分化した人間の歴史。「一つになろう」という動きは、言ってみればもとの形に戻ろうとする自然の動きと言ってしまってもいいかもしれない。
イメージとして。バス停がある。そして電車の駅がある。船の港があって、飛行機の空港がある。これらの広がりは、町や村から国という範囲の広がりを表している。それが今、宇宙港(スペース・ポート)。つまり「地球の玄関口」のようなものができようとしているのだ。(実際に、アメリカ・ニューメキシコ州に建設されている)。
具体的に、今のユニオンを見てみると、まずパッと出てくるのがEUだろうか。欧州連合、現在27カ国。これは政治・経済などを共にする地域統合体だ。これに加盟するには、例えば死刑制度を廃止していなくてはならないなど信条的なものも含まれている。除外国はあるものの、通貨まで統一された統合体は、実現までにも時間がかかったし、実現した今も問題を抱えているのは事実だ。しかし、それでも解体へは向かわないのには、それだけの理由があるに違いない。これだけの強固な統合体は、歴史上初めてなわけで、その先が、私たちの歴史となっていくのは間違いないだろう。ちなみに、国境検査なしで行き来できるシェンゲン協定は、EUという一つのくくりを実感できるものではないだろうか。フランクフルト経由でマドリードへ行く場合、日本発着の飛行機に乗っていると、入国はフランクフルトで済ませる。その後、マドリードは「国内線並みの」扱いとなるのだ。通貨も変わらない、イミグレも通らない。ぼくら外国人にとっても、この統合体がいかに「一つ」かを感じさせてくれる。
このEUを手本として、作られたのがAU(アフリカ連合)。モロッコを除く全ての独立国家(53カ国)が加盟している。政治・経済、そして多くの紛争をAUとして解決しようと試みているところだ。北南米大陸にもユニオンはある。アメリカ合衆国は「世界の警察?」を元に、どこにでも顔を出しているが、例えばナフタ(NAFTA/北米自由貿易協定)は、カナダ、アメリカ、メキシコ3国の署名だ。南米には同一通貨・パスポート・議会を目指した南米諸国連合(UNSUR)がある。この南北を繋ぐものが、最近では効力がなくなってきているが米州機構(OAS)。アメリカとヨーロッパを繋ぐものはNATO(北大西洋条約機構)で、旧ソ連の独立国の共同体CIS、中央アジアを繋ぐ上海協力機構、アラブ世界はアラブ連盟。ヨーロッパとアジアはASEM(アジア欧州会合)で繋がれる。結びつきの強弱はあるものの、世界地図を埋め尽くす「協定」は確実に増えているのが実情だ。
で、私たち日本の結びつき。日米同盟という、とにかく強い「縛り」を一旦のぞいて話すと、日本はアジアの中で複雑に絡み合う協力関係の中にある。一番広く強固に結びついたASEAN(東南アジア諸国連合)に、+3として日本、韓国、中国が名前を連ねている。そのASEANからカンボジア・ミャンマー・ラオスを除く国々がAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に入っており、今回、先述のTPPへの加盟も考えているというのが現状だ。今後の動きとして、東アジア共同体を視野に、インドも巻き込んだ東アジアサミットという会議を通して、欧州やアフリカのような共同体を創り上げようとしている。
ヨーロッパ、アフリカ、アジア、南北アメリカ。世界の「地域」が一つになって、それがトランスする未来予想図は、一応描けているわけで、それに先駆けて四苦八苦中のヨーロッパの動きが歴史を変えていくかもしれないと期待できるのだ。
世界史の教科書を開いて、考えたとき。ヨーロッパ諸国は様々な面で「先」を行っていた。栄えるのも、滅びるのも。紛争も戦争も開発も革命も。そんなEUの形が、世界中に広がるのは、時間の問題かもしれない。今や、一つの国だけではどうすることも出来ない。そういう「繋がり」をすでに必要としてしまったのだ。世界が一つになる。私たちが地球人になる。どこかの惑星からみたら、それは「島国」並みの資源不足かもしれない。
頭の中が宇宙戦艦ヤマト並みの広がりを持ってきたところでそろそろ終わろうかと思う。
つまり。今、起ころうとしている世界の繋がりは、必要に駆られたもので、それはあくまでも「個」があってはじめて成り立つモノだ。一人一人が確固たる「人」でなければ、繋ごうにも「手」を差し出すことすらできない。一つ一つの国が、最低限の「モノ」を作り、流通させ、いわば余剰分で他国との交渉をする。根源的な土台を固め繋がりあい、結果、世界を埋め尽くす一枚の地図になる。宗教・民族・人種。複雑に絡み合えばこそ、協力するという考えが生まれるし、それを混ぜ合わせてこそ、先の未来が広がる多様性がある。
私たちの限界は地球じゃない、と思う。もっと先の、さらに広がった世界を見たとき、今のつながりの動きは、もしかすると「むら」が「くに」になり、国家になったそれに近いかもしれない。
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