黒澤明監督、不朽の名作だろう気がする。確かに「生きる」もいい、「七人の侍」も素晴らしい。だけど、あまりに「激しい」か、あまりに「退屈」かを描かれても、「う〜ん」と首を傾げるというか。その点、この映画の持つ人間関係、時代背景と設定、構成、当たり前ですが天才的です。黒澤演出を確立した作品であり、三船との黄金コンビ、記念すべき第一弾作品です。
「やくざが怖いなんて伝説だ。
商売柄、困らせるのがうまいだけだ。」
天使≠酔いどれ。
それは単にイメージ、単に見かけ、単なる・・・
汚らしくて口の悪い、だけど「熱い」という、その後えがかれ続ける人間像の、初期完成版と言えるのではないでしょうか。
酔いどれの、じじいの、医者。
それが、若いチンピラにとっての、天使だった。
やくざという商売、結核という大病。それらがもたらす死の連想。戦後3年目の混乱期、まだ「死」が濃厚にただよった社会背景の中で撮られた作品。「救いたい」側と、「救われたい」側の間にギシギシと擦られる壁。それは払いきれない関係。
松永は、やくざという社会にその分かりやすさをもとめたが、どんな立場にも関係にも、存在する「穴」=「罠」=「裏切り」。そこにはまりこんでしまう。町医者の眞田はツンケンとした酒飲み。2人はお互いの関係の中で、突き放しては引っ張り合うように、グラグラ揺すられていく。
舞台となった田舎町の沼地。
これが、戦後を象徴し、そして、そこからなかなか抜け出すことのできない「古い世界」を示しているように思えた。
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1948年(日本)
酔いどれ天使
監督:黒澤明
出演:志村喬、三船俊郎、山本礼三郎、木暮実千代、中北千枝子ほか