“This is my life..... my stupid little life.”
レスター・バーナム42歳の、ここ20年間の生活は「死んだような」ものだった。そして、「自分が死ぬ」、そんな特別な日の、それまでのおよそ1年を描いた作品。テーマは「美」。愛や成功やプライドや外見上の、モヤモヤとした理想。アメリカという国の話でなくても、共感できる点は日本で生活していても多い−−

思春期の不安・怒り・不満・誇張・自慢・コンプレックス。
家族にも友達にも「本当の」自分が見せられなくて、そんな本当の自分の姿にコンプレックスをもつ女子高生。
厳格な父親の下で、“雪が降り出しそうな、そんなピリピリとした空気の中、落ち葉と一緒に舞い、浮かび上がろうとしても停滞してしまう”毎日で、麻薬を売りさばく男子高校生。
ゲイを激しく罵倒し、毛嫌いするが本当は「ゲイ」の男。
娘には聞けないからと娘の友達に娘のことを聞く父親。
夫に抱かれながら、ソファを汚さないでと口走ってしまう妻。

「美」。レスター・バーナムにとっての「女性・薔薇」
リッキーにとっての「死人」、キャロリンにとっての「成功」、
ジェーンにとっての「豊胸」、元海兵隊大佐にとっての「男」。

“I'm great.”
レスター・バーナムはその日、銃で頭を撃ち抜かれる夜、
そっと呟く、「幸せだ」と。
それを噛みしめながら、両手に昔の家族写真を持つ。

「美の溢れる世界で怒りは長続きしない。美しいものがありすぎるとそれに圧倒され、僕のハートは風船のように破裂しかける。そう言うときは体の緊張を解く。そうすると、その気持ちは雨のように胸の中を流れ、感謝の念だけが後に残る。僕の愚かなとるに足らぬ人生への感謝の念が…」(ラストシーンでのレスター・バーナムの言葉より)

怒りや不満や倦怠。
現代人が共通で持つそんなものなど、各々の「美」の前では無力で、胸の中でスーッと流れると、なんて幸せなのかと感謝したくなる、というメッセージ。生きていること、だからの「美」、そして幸せ。

アメリカの映画産業の中で、この類の映画が大ヒットをおさめたことで、バーン、ドーンというユニバーサル・スタジオ的な作品ばかりでなくなることを、ハリウッドにも期待できる、かもしれない。



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アメリカン・ビューティ
AMERICAN BEAUTY
2001年 (アメリカ)


監督:サム・メンデス
脚本:アラン・ボール
出演:ケビン・スペイシー、アネットベニング、ウェス・ベントレー他