包帯クラブ
包帯を巻く、という処置。傷を治すための術。止血して人間の持つ「治癒力」に頼って待つという感じ。それを……心の傷にも適応させる。

言ってみれば、この作品はそういうテーマである。そこが面白い。原作のおもしろさが、気怠さや儚さ?みたいなものまで、スクリーンに現れているように思う。

冒頭、団地の前で、肥満気味の少年が逆上がりの練習をするシーンから始まる。両親が離婚し、家事をする主人公・女子高生のワラは、包丁で誤って手首を切ってしまう。リストカット。そうじゃない、けど、そうでもあるような…。「自分を捨てて、"女"に走った父は、なぜ自分を愛さなかったのか、愛されなかったのか」。ワラはそんな風に思っている。

「私の中から色々大切なものが失われている/いつ頃からかそれに気付いた/例えば、悪魔のような奴があらわれて/これとこれを持って行くとか分かりやすく宣言してくれたら/ちゃんと気づいて抵抗しただろうけど/現実には、気づいた時にはなくなっている、って感じだ/それも敵にはとても思えない人とか/目に見えない何かによって/少しずつ毎日のように失っている」

病院の屋上で、ワラはフェンスに立ち、ぼんやりと「町」を眺め、「どうせ…」と呟く。そこに現れた変な関西弁の男ディノ。自殺すると思いこんでた。死のうとしたんじゃないと否定するワラに、ディノは言う。
「さっき自殺しようとしていたのは確か、だ」と。そして、
「そんな時もあるよなぁ、道で歩いてて まっすぐ歩いてて ただまっすぐ歩いてることがちょっと嫌になって 何気なく角をスーッと曲がるように 人は死を選ぶ」

ディノの言葉、彼の存在の重さ、ワラは病院の屋上で「不思議」な顔をする。見えんでもええもんまで、見える屋上。ここには、「ワラの血が、心の血が流れてる」と。だからワラは死のうとしたんだと。もし血が流れているなら、このバカに見晴らしの良い屋上にワラの心の傷から血が噴き出しているなら、その血を止めればいい。

そうやってディノが屋上のフェンスに包帯を巻いた。
「なんか血、とまったような気せん?」

これが「包帯クラブ」の始まりだった。ワラは悩み多き親友・シオの相談に乗りつつ、ディノの真似をして包帯を巻いてやる。公園のブランコで。振られたと悲しむ彼女のために。シオはそのことをメールで流し、それが回り回ってギモという浪人生の元へ。この「心の傷に包帯を巻く」処置に感銘したギモがホームページを立ち上げ、「包帯を巻いてほしいところを募集する」ことになる。それが「包帯クラブ」になる。創案者?ディノも交え、ワラとシオの「元」友人もまきこで、それぞれに抱えた心の傷を施術していく。

ディノが負った心の傷。決して止血して癒してはならない傷。
そんな彼の深層心理が最後の最後で明らかになるまで、ディノは不思議な存在であり続ける。例えば彼は、寝てる間に爆弾を打ち込まれるイラクの気持ちが分かりたくて、立てたテントの中に爆竹の束を放り投げろといったり、裸足で学校へ行ったり、生ゴミにまみれて生活したり……

「もしみんなが、他人の痛みをほんまの意味で知ることができたら、世界は絶対変わる」と言う。

それに対してワラは、「それで何が変わるの?」と。包帯を巻いたぐらいで、何が変わるのか。変わらないかも知れない。が、何もしないままでいいのか。何もやらへんかったら永遠に変わらないまま。やっぱりやってみたほうがよくない?

【包帯1本巻いて何かが変わったら めっけもんや】

小学生の時、男の先生から「いたずら」されていたギノ、父の工場の倒産で進学を諦めた友人、高層マンションに住みながらも、何かに不満なまた別の友人。人はそれぞれに、色んな傷を負っていて、そこに包帯を巻いてもらいと思っている。クラブのサイトにはたくさんの依頼が来て、それを半ば愉しむように「クラブ活動」をするメンバー。

そんな「楽しい活動」に妬みを持ち、警察にたれ込み、、、世間ってそういうものということまでをしっかりと描いている。

とても身近にいる友人が、傷ついていて、そんな彼女を助けられない包帯クラブ。ワラは悩む。彼女を救いたいと願う。祈る。そして、かつて仲のいい時に待ち合わせた場所で、傷ついた彼女を待ち続ける。

一歩踏み出す勇気。誰かと一緒に、誰かを救う繋がり。包帯は、高層マンションの屋上で、ヒラヒラと舞う。

関西弁の友人と、ディノは中学の時ある別の友人をからかっていた。
そのからかわれた友人が、関西弁の友人を刺し、下半身不随に。
ディノは、自分の代わりに刺されたと思いこむ。自分の方がからかっていたのだからと。

人の心の傷。そこから血は流れない。だから治せない。それを、血が吹き出し、かさぶたになり、元通りになるまで、包帯を巻いて……。切り傷や擦り傷のように処置してやる。

ディノは、その関西弁の友人の元を訪れ、「彼」があのときよりも進歩している、流れ出した血が、かさぶたになっていることに涙を流した。

心の傷も、かさぶたになるのだ、と。


包帯を巻いて傷を癒していると思っていたが、実は、その包帯で繋がれた人間関係の中に「治癒力」があったのではないか。そういうメッセージがこの作品から感じられる。

冒頭で逆上がりの出来なかった子が、フッと舞い上がって回転したとき、ヒラヒラと舞った包帯の残像が鮮やかに甦って、なんとなく元気になった。


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包帯クラブ
2007年(日本)

監督:堤幸彦
原作:天童荒太
出演:柳楽優弥、石原さとみ、田中圭、貫地谷しほり、関めぐみ、
    佐藤千亜妃ほか