画家、サルバドール・ダリの生きた時代、彼の住む海辺の町に、シュルレアリスムを愛するオーナーが経営するレストランがある。同時代に生きた、世界をひっぱる音楽、芸術、アート、それらに感化される言動。

フランコ政権末期の1974年、抑圧され、禁止される中で芽生えた自由。ラブ&ピース、戦争より愛を、とヒッピーが謳い、一方で、火炎瓶を投げつけるなどの暴力性も混じる。

冒頭、バルセロナ。有名店でスーシェフのような位置にまで上り詰めた兄と、火炎瓶を投げて警察に追われる弟。この二人が、バルセロナを離れ、知り合いの恋人の家族が経営するレストランへ逃げる。

フランス料理へのあこがれ、スペインの田舎町で、フランス人シェフは自分の料理が認められないことへ不満を抱き、厨房は荒れ、最悪の状況下で経営されていた。

そこへきた、腕の確かな逃亡者。中尉が巡回し、権力を振りかざす中で、自由を求める若者は群れて屋台を出す。ビーチでは裸で愛し合い、それが取り締まられることを承知で、それでもやれてしまうほどの「末期」。

この映画は、フィゲラス(映画ではカダケス)という町の魅力、ダリという存在、そして、地中海。この要素で十分だともいえる。

期待したほどの料理シーンはなかったが、皿はみごとにおいしそうに映し出された。

ただ、そこはスペイン映画。情熱、暴力、愛、そのすべてが激しく、展開の少なさも加わって、それらが強調される(少し単調になる)ことになる。

情熱を持って願い、失敗したものだけが手にする成功。裏切りの愛の末、レストランはカオスと化し、そんな中で、ついに夢見たダリが食事に来る。

教会のような、聖地である厨房で、最後に真の愛を。ウエディングケーキをつぶしながら抱き合う演出は、日本人ならやらないだろう。

料理と厨房のシーンがもっとあればよかったのにと思う一方で、凪のようなストーリー展開の中で、ダリが背を向けて、地中海をのぞむシーンは、それが平和主義者たちの暴動の後のカオスの中であることも加わって、すごくよかった。

ちなみに、劇中で印象深いチュッパチャップスが、来場者プレゼントだった。



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美食家ダリのレストラン
2024年(スペイン)

監督:ダビッド・プジョル
出演:ホセ・ガルシア、イバン・マサゲ、
  クララ・ポンソ、ポル・ロペス、ニコラ・カザレ、  アルベルト・ロサーノ他