「今、ロンドンから電話をかけてる……もしもし、
エナヤットは、いない。
この世界に、もう…いないんだ」

16歳の少年、ジャマールの世界。
彼が切り開いた生きるための世界。ロンドン行き。
彼は「富」を夢見たのではなく、浮標の先に「生」を見出した、と思う。彼の世界が、「ぼく」たちと同じ、IN THIS WORLDだと思えることで、少しは何かが変わっていくのかと思う。イタリアの町で物売りをするジャマールを見て、ぼくが見てきた「世界」の子供たちを思い出した。彼らには彼らのバッググランドがあり、生活がある。ただ怪訝な顔をして「ノー・サンキュー」と言っていた僕自身、この映画の中に登場していたら、それを客観的にみてどう思っただろう。それを考えて、行き着いた答えで、少しは何かが変わるかな。

パキスタン、ペシャワール。
アフガン難民が暮らすキャンプで育った少年・ジャマールは、少しの英語と「ジョーク」を武器に、従兄のエナヤットと共に旅に出た。バスに乗り、トラックの荷台に揺られ、検問でつかまって強制送還されてもなお、「ロンドン」を目指した。
パキスタン→イラン→トルコ→イタリア→フランス→イギリス。
6,400キロの「亡命」の旅。

クラクションに砂埃、怪しげな店に、群れる男たち。中東からトルコにかけての世界は、そのままスクリーンに映し出されていた。そこを歩いている気にさせてくれる。ドキュメンタリー・タッチで描かれていることが、この映画をグッと魅力的にしている。イタリアではバカンスを楽しむ「子供」との対比が胸をつき、バックを盗んで駆け出すジャマールと一緒に、こちらまで息が切れてくる。トルコからイタリアのトリエステまで。地中海を渡る40時間以上の航海を、コンテナの中で耐える。詰め込まれた亡命者。生存者は、ジャマールと赤ん坊だけだった。彼の旅に、死が横たわり、それでも目指さざるを得ない現実。

フランスからイギリスに渡るシーン。トラックの下に潜りこんで、見える真夜中のイギリス。その、明るすぎる港のきらびやかさ。カレーからドーバーに渡ったフェリーからの光景を、ぼくは思い出した。その対比に、イランからトルコへ渡る冬山の真っ暗がある。響き渡る威嚇射撃。嘶く馬の声。

アフガニスタンを攻撃したアメリカの軍事費と難民キャンプに支給される物資の換算額。比べるのもバカらしい現実がまた、実際にはある。サッカーボールを追うジャマールの、コンテナの中で死んでしまったエナヤットの、彼らの世界と、「ぼく」らの世界。同じ、IN THIS WORLD。

ぼんやりとでも、「あ〜、こういう世界にいま居るんだ」と思えれば、きっと、変わる。



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イン・ディス・ワールド
IN THIS WORLD

2002年 (イギリス)


監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:ジャマール・ウディン・トラビ、 エナヤトゥーラ・ジュマディン