おにぎりが食べたくなった。
見終わった後の独特な感じ。この、感じは久しぶりだった。
まず、この映画は視覚的に素晴らしい。ヘルシンキの街の光が、これでもかというぐらいに店内に差し込み、コーヒーを入れていても、シナモンロールをこねていても、塩鮭を焼いていても、ショウガ焼きをつくっていても……、いつも明るい。優しい光。いい!
グラスを拭きながら、ぼんやりと店の外を眺めるサチエの姿が印象的だ。日本かぶれの青年という設定も素晴らしい。フィンランドではまだそうでもないのだろうが、フランスに行くとああいう青年で溢れている。漢字と仮名文字のTシャツを着て、漫画を読む。
「誰だ、誰だ、誰だ」、ガッチャマンの続き。
客の入らない「かもめ食堂」で、サチエの頭にガッチャマンの歌がまわる。なかなか出てこない、、、続き。ふとブックカフェで出会った日本人女性ミドリ。
「空のかなたに躍る影 白い翼のガッチャマン 命をかけて飛び出せば 科学忍法火の鳥だ 飛べ 飛べ飛べガッチャマン 行け 行け行けガッチャマン 地球は一つ 地球は一つ おお ガッチャマン ガッチャマン」
スラスラと歌詞を書くミドリ。彼女は世界地図を広げて目を瞑ったまま指した所、ヘルシンキにやってきたという。サチエとミドリの共同生活が始まる。
店には、あの日本かぶれ青年しか来ない。なかなか人気が出ない「かもめ食堂」の看板メニューはおにぎりだという。
その頃、ロストバッゲージで途方にくれるマサコがヘルシンキの空港に降り立つ。
物語は、かもめ食堂の場で以前商売をしていた男性や、夫に逃げられた女性など、白夜の夜に薄明かりが指したような人間模様が続いていく。
そして決まって、優しい光のさしこむ「食堂」に戻ってくる。
温かい映画だ、と言ってしまえばそれまでで、だけどそれだけじゃないような気がする。井上陽水の歌が流れ、エンドロールになっても、「かもめ食堂」ではあの三人が「そのTシャツはどうの」とか、「折り紙で今度はやっこさんをつくろう」とか、コーヒーを飲みながら暢気に話しているような気がする。そう、続きがちゃんとあるような感じ。
女優三人の個性が光るのは見る前から分かっていたし、ゆったりした時間を感じさせてくれるんだろうな、という予測も見る前からついていたが、なんといっても「あの光」がいい。
スタイリッシュで、次々おこる事件も、どこかほんわか。いい。あんな食堂が外国の町にあれば、それだけで楽しいだろうな、と思う。
確かに、おにぎりは、日本人のソールフードだ、な。
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かもめ食堂
2005年 (日本)
監督:荻上直子
原作:群ようこ
出演:小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ他