国境まで100キロ
国境まで100キロ
本当の暮らしは「向こう」にある
生まれた時から
母はそう言っている
国境までの100キロ
ずっと遠い未来を想像しては
ダダブの空の夕焼けを
僕は眺めている
今の嘘の暮らしの中で
足りなかった全てを補う故郷
頭の中でそれは アメリカのようだった
僕は僕の故郷を知らない
この難民キャンプで生まれ育った
ここじゃない「向こう」
それが本当の暮らし
幼い妹はお腹をコワして泣いている
壊れた銃を弟はおもちゃにして遊んでいる
遊んでいる弟の片足は去年無くなった
泣いている妹を撫でる弟の手には
壊れた銃がある
あるものはどれも壊れているんだ
ダダブの空の夕焼けを
僕はまだ眺めている
国境まで100キロ
生まれてからずっと
その距離は縮まらない
本当の暮らしまでの距離を
僕はこの壊れた場所から
望んでいる。強く。