「楽園」とその崩壊に至るまでの人間のエゴ。不思議なコミュニティーの中で自分たちが造り上げ、育て、時には血を流し、死とも向き合う。大きな敵とも対峙した。そんな日々。思い出せば、「普通の思い出」、単なる旅先での出来事。このコントラストがいい。濃密過ぎた日々も、興奮を覚えた時間も、ただなんとなく過ぎていった思い出の中に溶け込んでいく感じ。
人生?なんてそういうものかも知れないと教えられる。

まず、映画云々よりも原作が好き。もう八年ほど前になるか、これを読んでいたときのことを思い出す。続きが読みたくてしょうがなかった。それが映画化されると聞いて即、鑑賞。「え〜」と落胆して劇場を出たのもまた事実。が、何年かしてからDVDでもう一度見てみると、「んっ、いやいや、面白いかも」と思い直したりして……。やっぱり原作を知ってしまっていると、映画の短い時間では描ききれない「奥行き」に歯がゆさを感じたりする。が、何年かするとその記憶(原作での)もあいまいになっているところが多く、対作品をそのまま見れることができるので、それが影響してか……。

リチャードがバンコクのゲストハウスでダフィにとりつかれ、ノイローゼになるシーンの映像は素晴らしい。地上の楽園への地図を手にして、「万が一の場合を考えて保険をかける(こっそり教えてしまう)」という心理描写もいいし、それが後々ピンチに繋がっていくという下りも面白い。島へと渡る道のりも見事。そして楽園、ビーチ(ピピ島)は文句なしに綺麗。

この作品を、冒険とか自由を求めたバックパッカー達の文明社会への反抗なんて考えて見るとズレが生じる。ただただ、自分が旅をしているときに、こんな「特ダネ」を手に入れたら行ってみたくなるし、行ってみたら実存して、そこでしばらく暮らして、「帰ってくると」、べつにおじいちゃんになるわけでもなく、淡々と時間が過ぎていて、はい、それまで。というリアルのドライさが描かれていると見ればいい。そうしたら、余計に「楽園」での出来事が特別に思えるし、その続きをネットカフェでメールしてしまう程の「思い出」になるものなのだろう。



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ザ・ビーチ
The Beach
1999年 (アメリカ)


監督:ダニー・ボイル
原作:アレックス・ガーランド
出演:レオナルド・ディカプリオ、ティルダ・スウィントン、
ヴィルジニー・ルドワイヤン、ロバート・カーライル他