優しくて嫌いな人
嘘ぐらい、ついて欲しかった。
なのに、やっぱりあなたは
最後まで優しい人だった。
階段の上と下で、
見上げるあなたの耳が透けて
向こうに見える真夜中。
真夜中の、暗い暗い方へ
それでもわたしは、一人で行く
最後ぐらい、
思い切り文句を言ってやりたかった。
激情して泣いて、
なぐってやりたかった、のに
そんなチャンスもくれないあなたは
やっぱり、優しくて嫌いな人
優しいから好きになって
だから嫌いになった
わたしは本当に嫌なオンナ。
あなたの方から、そう言って欲しかった。
嘘、でもいいから、ちゃんと言って欲しかった。
あなたの手と足と腰と背中、
全部、最後まで優しかった。
あの、顔で。
「さよなら」と言う、静かなリズムで。
あなたの背中を見送りながら
わたしはあなたのことが
やっぱり、嫌いだと
強がったの。