「人間の持つ味を手に入れたAIは。」

それは、短冊切りした大根が、やわらかくなるまで、弱火で、じっくり煮る時間に似ている、とも思う訳です。出汁の香り、刻んだネギの余韻。ぼんやりと鍋の中の、小さなぶくぶくを眺めたりなんかして。

休日の朝の台所の時間。炊飯器から蒸気が噴き出て、フライパンから目玉焼きに跳ねる油の音がします。高菜と明太子を小皿に分けて、箸置きをどれにするか選びます。そうしたら、ほうじ茶を注ぎます。

まったりした、この時間と空間。休日であるということが絶対条件ですが、すべてが絡み合って、大好きな波長とリズムが流れます。

六本木にある青山ブックセンターは、昔から大好きな書店です。

古本屋のように、店主を常に感じることもなく、セレクトショップのように、選りすぐりばかりを集めたという〈こぜましさ〉もありません。ちゃんとベタに本屋さんなのに、ものすごく特別な所なのです。

それは、もちろん、私にとって、ということです。私の「好き」を凝縮して、「知らない」を平積みしてくれるので、とても刺激的です。

店内に入ると、とても静かです。なのに、私の頭の中で、先述の〈休日の朝の台所の時間〉が流れるわけです。心地よい、配列。気持ちのいい色、目にすーっと飛び込んでくる本のタイトルとポップ。

ニューヨークが読みたいときはニューヨークを、ロンドンな気分の時はロンドンを、で、たまにはパリと思うと、しっかりパリなんだからかないません。

まったく、いつも、この書店は、私の好奇心泥棒です。アート、書、詩、建築、洋書、デザイン、小説、グルメ、旅。モレスキンなんて文具もあって、もう、どこまでも私好みです。

服を買いに行くと、結局はいつも買う店というのがあって、それは自分のサイズや、好みのシルエットに合致しているからで、街で誰かが着ているをいいな、と思っても、自分にはまったく合わなかったりします。

芥川賞に直木賞、本屋大賞にミステリー大賞。新聞、雑誌、情報番組で紹介される「消費されるべき」本がたくさんあって、映画化を待つばかりのモノもあります。誰かが選んだ本を、誰か視点で紹介されて、それを面白い、と思うのは、街で見かけた「いいな」とおもった服が、自分に合う確率に近いです。

そうなると、個々の好みに合わせたレコメンド機能。世界最大の書店とも言われる「Amazon」が持つ広告機能ということになるかもしれません。自分が検索したものと近しいものがどんどん連鎖する。

青山ブックセンター六本木店で、私が一冊のアート本を手にする。文化人類学へ傾斜するその本の中から、突如、フランスが認めた日本料理店というキーワードが出てきて、どれどれと、隣の黄色いグルメ本を手に取る。それじゃ赤いのも、とミシュランガイドに手を伸ばして、隣に、インテリア本がある。どういうわけか、文化人類学からグルメ本に行って、ミシュランを経由してインテリア本を見るという流れが、非常にまったりして心地良いわけです。

それは、たぶん、大根が柔らかくなるのを待っている間に、ネギだったり、炊けたごはんだったり、目玉焼きだったり明太子が、絡み合っている時間のリズムと一緒だと思います。

つまり、Amazonでは連鎖できない、青山ブックセンター六本木店での連鎖。これがあるから本屋の空間は貴重だったりします。

が、仮に、ですよ。4回目の大産業革命と言われるAIが、それをやってのけたら、どうするのか。物流改革が歪みながらも進み、もう、店舗に足を運ばなくても、日本全国、だいたいどこからでも「買える」時代になりました。言わずもがなで情報も氾濫しています。東京だから、島根だから、愛媛だから、なんて、その気になれば、そんなに差がないぐらいに情報取得が容易です。

その情報を、人間味で連鎖させる。多少のブレや重なり、塗り残しなんかが「味」になる、そんな連鎖を人工知能がやってのけたら、本当に、大産業革命になるでしょうね。

手に職があるから大丈夫。なんて言われる美容師でさえ、髪を切るのではなく、髪を付ける時代になると、みんな丸刈りにして、髪型は装着するから、職がなくなる、と言ってました。

私の父親も、ずいぶん昔、着物の柄を決めて、型を彫るのは機械がするようになる、なんてことも言ってました。

人間にしか出せない「味」を手に入れたAIが造る未来。自分という尺度で考えると他人事のように未来ですが、自分の息子の尺度で考えるとどうか。はたまた孫の尺度なら。いや、そんな風に暢気に「先」のことだと思っていたら、レコードがCDになったように、ワープロがパソコンになったように、そのCDすら消えてデータ化され、パソコンはスマホに取って代わられているここ数年。

AIが当たり前になる未来は、実は、速攻でやってくるなんてこともあり得るかもしれません。実際に、そんな風に言う人もいます。数ヶ月で、一気に私たちの生活の中に入り込んでくる可能性。それがゼロではないという事実。

その時、休日の朝の台所の時間は、短冊切りした大根が柔らかくなるまで待っているまったりした時間は、はたして、どうなっているんですかね。



 2018年1月21日

※過去の日記はこちらへ 
※不定期更新のブログはこちら

about this site




Copyright (C) 2003〜2018 Shogo Suzuki. All Rights Reserved.





■2017年12月10日更新
Scenic Spot
「ドクターヘリ」追加
atelier
「THEドラえもん展TOKYO」追加

↑今週の1枚、
詳細は写真をクリック

■2017年12月17日更新
Stories
「有り」を追加
Hot Times
「サムライブルー」を追加
■2017年12月24日更新
Hot Times
「クリスマスディナー」を追加
NaRaDeWa
「キッズドローイング」追加
■2018年1月6日更新
Report
「大阪ミナミ散歩」を追加
NaRaDeWa
「除夜の鐘」追加
■2018年1月13日更新
Hot Times
「串カツ」追加
Report
「レオランドお台場」追加
■2017年12月3日更新
SHI-shu
「クリアーハニーサニー」追加
Hot Times
「ラーメン」を追加
■2018年1月21日更新
NaRaDeWa
「雪景色・五箇山」追加
words
「書家 石川九楊のことば」追加