「さ、いこう」

マイアミに乗り込んだ侍ジャパンの1戦目、準決勝のメキシコ戦を前に、円陣を組んだチームの中心にいたのはダルビッシュ有でした。「このチームは、控えめに言っても、チームワークも実力も、今大会でナンバーワンだと思う。宮崎でのキャンプから始まって1か月、ここで終わってしまうのは、ほんとにもったいないので、メキシコにしっかり勝って、明日にすすみましょう」。

あれだけの夢の選手団が、高校野球児のごとく目をキラキラさせて気合にあふれ、とにかく楽しそうなのが印象的でした。キャンプ初日から精神的主柱のダルビッシュが参加したことは、やはり大きかったようで、栗山監督も「ダルビッシュ・ジャパン」と言っても過言ではないと話すほど。

待つのではなく、自分から話しかけるようにしていたといいます。チーム最年長で唯一の昭和生まれ、前回優勝時の胴上げ投手。伝説のダルビッシュが、そんな感じで雰囲気を作ってくれたので、若い投手もどんどん質問にいけたようです。

準決勝のメキシコ戦は春分の日だったので、家族3人、もちろん朝8時からテレビにくぎ付けでした。この日の先発は令和の怪物、佐々木朗希。ストレートでガンガン押していくピッチングは見ていてすがすがしく、直球での三振は気分がスカッとしました。メジャーにいく日も、近づいたような世界デビューでしたね。

二番手に、二年連続沢村賞の山本由伸がマウンドにあがりました。ほんとうに危なげないピッチングで安心して見られました。山本がリズムよく抑えて、攻撃もチャンスを作るんですが、最後の1本が出ず。鬼門と化したレフトの好守備に何度も阻まれたりしながら。

そんな中での、吉田正尚の同点スリーラン。
あれは、もう喜びがはちきれました。今、思い出しても興奮します。

次の回にすぐ2点を取られてしまい、また嫌な展開になりましたが、なんでしょう、不思議と「まだまだいける」と思いました。今回の侍ジャパンは、そう思わせてくれるチームでした。そして、事実、そうしてくれるチームでした。

最終回、トップバッターは大谷翔平。とにかく塁に出ることだけ考えていたというスーパースターは、見事にツーベースを放ち、で、あのガッツポーズですよ。ベンチを鼓舞して、雄たけびを上げる姿。本当に鳥肌モノでした。もっとスマートにやってのける印象だったので、こちらまでグッと気持ちがはいりました。

ここまで凡退が続いていたムネが、神様降臨のごとく、いや、「おはよう!村上」のごとく、目の覚めるようなさよならヒットをはなった瞬間、鳥肌と同時に電流が流れたような。野球が面白い。それを見せてくれました。

敗れたメキシコ代表の監督がいうように「試合に勝ったのは日本だが、これは野球界の勝利だ」ったように思います。

翌日、アメリカとの決勝戦。試合前の大谷翔平の言葉がよかったです。「ぼくからは、いっこだけ」と切り出し、「今日だけは、あこがれるのを、止めましょう」と。相手のチーム・アメリカはスター揃いで、普段からあこがれている存在ばかりだけど、「あこがれていると、超えられないので」。「ぼくたちは、トップになるために来ているので」と。

最後、「さぁ、行こう」という掛け声も、
ビシッとしまった、いい調子でした。

決勝の先発は、今永投手。スターぞろいのアメリカ打線に真っ向から立ち向かう姿が素晴らしく、今大会あたりまくっているターナーにホームランこそ打たれましたが、引けを取らないピッチングでした。

そして、取られてすぐ裏に、村神様。目覚めた日本の主砲が、目の覚めるような同点打。そこからさらに岡本、源田と続いて、ヌートバーのファーストゴロの間に勝ち越せたというのが大きかったですよね。

その後、前日のメキシコ戦でホームランをアウトにされた岡本が、今度は、完璧なダメ押し弾。ピッチャー総動員で臨んだチーム・ジャパンが、アメリカ相手に3−1で試合を終盤まで運びました。

そして、8回のマウンドにはダルビッシュ有。今年は、ダルビッシュにとって調整の難しい年になって、韓国戦もイタリア戦も、やはりまだ本調子じゃないようにも思えました。決勝の先発も、ダルビッシュで決まりかと思われていたところ、最後の方に回ったということは、さすがのダルでも、難しかったんでしょうね。

ナ・リーグのホームランキングに1発を浴びましたが、なんとかこの回を1点で抑えて、最終回。ダルビッシュ有から、大谷翔平へという夢のリレーが見られました。

高校野球でよく、9回にマウンドに上がる選手のユニフォームが、それまでのプレーで汚れているということがありますが、世界一を決める、そんな場面で、クローザーとしてマウンドに上がる大谷のユニフォームは泥だらけでした。

打って、走って、そして投げる。すごい選手ですね、改めて。フォアボールを与えたものの、次の打者で注文通りのゲッツー。そして、最後のバッターが、エンゼルスのチームメートであり、アメリカチームの主柱、マイク・トラウトでした。

すごいめぐりあわせ。昔、甲子園の決勝戦で、早稲田実業の斎藤投手が、最後、苫小牧の田中に投げて三振をとって優勝したことを思い出しました。

大谷翔平は、ストレートを中心に攻め続け、キャッチャーの中村曰く、これまでにない球を投げ込んでいきます。そして、最後。鋭くまがる変化球でトラウトを三振に取り、雄たけびとガッツポーズ。

そのあとグローブを投げ、帽子を高く舞い上げて、ナインと抱き合いました。

ものすごく画になる光景でした。かっこよかったです。ほんとにすさまじく素晴らしかったです。

第2回大会以来、実に14年ぶりの世界一に輝いた侍ジャパン。WBC優勝おめでとうございます。そして、ありがとうございます。野球が、こんなにも面白いことを、こんなにも鮮明に、そして熱く教えてくれました。

思えば、東京プールから危なげない試合展開でした。終わってみれば、全勝での優勝です。中国、韓国、チェコ、オーストラリア、予選リーグは、圧勝でしたね。普段は、それぞれのチームで主軸をはる選手たちが、チームプレーに徹して、ただただ勝利を、その結果を求める姿でした。

そして、負ければ終わりの決勝トーナメントでも、イタリア、メキシコ、そしてアメリカを撃破。この大谷翔平が三振をとって優勝を決めたシーンは、これから何年経ってもつかわれるでしょうね。ちょうど、イチローの決勝タイムリーと、最後に三振をとって優勝を決めた2009年のダルビッシュ有のように。

ちなみに、メキシコ戦が終わった火曜日の祝日の午後の公園では、普段はあまりいない「キャッチボール」する親子が、ほんとうに多かったです。普段、サッカーボーイの私の息子も、今回ばかりは野球に夢中になって「パパ、キャッチボールしよ」と、誘ってきたので、私たち親子の、キャッチボールしました。

野球部の部員数がサッカー部のそれよりも少なくなり、オリンピックの種目からも落選するほど世界的にマイナーなスポーツになった今、もう一度、すそ野を広げることのできる大会だったように思います。

アメリカのメディアでの質問、「ショーへイ、ここからは真剣な質問なんだけど、君はいったい、どこの惑星から来たんだい?」。

昨日のキリチャレのサッカーも興奮しました。夏には、ラグビーもバスケットボールもワールドカップです。コロナ禍で沈んだ雰囲気を、一気に解き放つようなスポーツの祭典に、酔いしれることができる幸せ。

さぁ、こっからです、「さぁ、行こう」と、私も静かに。


 2023年3月25日


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